1985年にスタートした東京国際映画祭の一部門、国際女性映画週間"映像が女性で輝くとき"は、今年第10回を迎えます。社会のあらゆる分野での女性の発言を望み、日本の女性監督の輩出を願って企画されたこのプログラムは、11月2日から7日までの6日間に、9カ国13本の世界の女性監督作品を上映いたします。そこで、9月10月の本映画紹介欄は、上記作品の中の何本かをとりあげることにしました。

「デボラがライバル」

大竹 洋子

監督 松浦雅子
原作 多田かおる
出演 吉川ひなの、谷原章介、松岡俊介、篠原ともえ ほか
日本/1997年作品/カラー/94分

 「彼女が好きな彼は、彼女でもある彼が好きな彼でした」とキャッチフレーズにある。どういう意味かというと、"彼女"というのはヒロインの女子大生、朝代。次の"彼"は同じ大学のアメフト選手の花形、五十嵐クン、朝代は彼に夢中である。"彼女でもある彼"は、やはりアメフトの名選手、市松クンで、自称デボラと名乗る彼もまた、五十嵐クンに恋している。すなわち、朝代の恋のライバルはオカマのデボラ、という設定が、そのまま映画のタイトルになっているのである。ちなみにデボラとは、アメリカの伝説のロックグループ"ブロンディ"のヴォーカル、デボラ・ハリーを指していて、念のため書き加えると、この歌手は女性である。

 雑誌に掲載された人気コミックを原作とするこの映画の監督は松浦雅子さん、1995年に「人でなしの恋」でデビューし、これが第2作目になる。「人でなしの恋」は当時ブームになっていた江戸川乱歩の原作によっている。激しく恋して結婚した夫が夜な夜な消えてしまう。跡をつけた妻は、夫が母の形見の人形しか愛せないことを知る。妻に秘密を知られた夫は自ら命を絶ち、妻は大きな屋敷で一人老いてゆく。松浦さんはこの奇妙な物語を丁寧に、流麗に、格調高く撮った。コマーシャルフィルムの演出に長くたずさわった松浦さんは、すぐれた映像感覚の持主である。

 この彼女のセンスの良さが、よい形でいかされたのが「デボラがライバル」である。青春まっさかりの大学生たちの他愛のないラブストーリーが、元気溌剌と描かれて好感がもてる。そしてここからが本題に入るのだが、女性監督が作る映画がなぜよいかといえば、登場人物に納得がゆくからである。女も男も嫌味がなく、無理がない。比較対照としての善悪がなく、人間そのものを等価値でとらえる。そしてこのような夏休み用の軽い作品にも、女性としての視線がきちんと貫かれているのである。

 これまで国民的美少女と呼ばれていてもピンとこなかった吉川ひなのが、実に愛らしい。この足の長い少女は全編を通してはしゃぎ、嘆き、走り回るが、いつも真剣勝負である。オカマのデボラはマニュキアが趣味で、得体の知れない格好をしたりするが、観客は彼のことをよく理解できる。結局二人は共に五十嵐クンから卒業して、次のハンサムボーイに熱をあげる模様である、というところで映画は終わる。

 松浦さんにとっては、わりふられた仕事であろう。「人でなしの恋」も同じケースだったかもしれない。しかしこうやって実績をつみチャンスを待って、彼女が本当に作りたい映画ができる日を、私たちは待っている。


全国東映系で9月12日まで上映
国際女性映画週間作品として11月5日(水)3:30よりシネセゾン渋谷で上映
シネセゾン渋谷 03-3770-1721

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