「コーリャ愛のプラハ」

大竹 洋子

監督 ヤン・スビエラーク
製作 エリック・アブラハム
脚本とロウカ役 ズディニェク・スビエラーク
コーリャ アンドレイ・ハリモン
チェコ・イギリス・フランス合作/1996年作品
カラー/ビスタサイズ/ドルビーステレオ/105分
1996年東京国際映画祭グランプリ、最優秀脚本賞
1997年アカデミー賞外国語映画賞
1997年ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞

 チェコ・フィルの首席チェロ奏者だったのにクビになって、今は教会で葬儀専門の楽士になっているロウカが主人公である。くる日もくる日も追悼の曲を弾く。弾きながら女性歌手のスカートを、弦でめくりあげたりする。どちらかといえばむさ苦しく、すでに50歳をこえているが独身で、アパートのてっぺんに住み、複数の女性と情事にふけり、いつもお金がなく、古くなった墓碑銘に金や銀をほどこすアルバイトで収入を得たりする。時は1988年、社会主義体制が終焉に向かう直前のプラハが舞台である。

 さて、ロウカは謝礼金めあてに子連れのソ連女性と偽装結婚した。しかし彼女はすぐに西ドイツに亡命、ロウカの許には5歳の子ども一人が残った。ロウカはこの子と暮らす羽目におちいる。子どもの名前はコーリャ、映画のタイトルである。

 チェコ語とロシア語、ことばが全く通じないところから二人の物語が始まる。ガールフレンドたちからは断られ、ロウカの母親もコーリャを預かってくれない。ロシア人の子だからである。チェコ人のロシア嫌いも相当なものである。ロウカも、社会主義体制の中でうまくやってゆけなかったので、職を失ったのだ。

 ロウカの生活は一変せざるをえない。そんなロウカとコーリャが歩くプラハの街が美しい。母親が住む郊外につづく道をロウカの車が走ると、あたりの風景もまた美しい。そしてロウカの奏でるチェロの音がすばらしい。ドボルザークの曲が流れる。かつて、音楽か家庭か、どちらかを選べと音楽家の両親にいわれて、ロウカが音楽をとった経緯もわかってくる。

 町はずれの映画館で、ロシアのアニメをやっているのをコーリャがみつけた。しかし、お客は彼ら二人だけなので上映がしてもらえない。5人いれば上映するという受付のおばさんから、ロウカは5枚分のチケットを買う。こうして貸し切りになった映画館で、二人がスクリーンをみつめるシーンはよかった。監督の映画への想いがにじみ出る。

 監督のヤン・スビエラークは32歳。4作目の「コーリャ」が数々の国際映画賞に輝いた。ロウカを演じるズディニェク・スビエラークはヤンの父である。チェコを代表する俳優で脚本家の父は、息子への愛をこめて「コーリャ」の脚本を書き上げた。そして1年近くかけてようやく探し出したコーリャ役のロシアの少年、5歳のアンドレイ・バリモンの愛らしくも見事な演技が世界中の観客に気に入られ、アメリカでは30週以上のロングランになった。

 ロウカとコーリャの心が今や一つになったところで、二人に別れが訪れる。ベルリンの壁が崩れ、コーリャの母が迎えにきたのだ。空港で母子を見送るロウカにも新しい運命が待っていた。民主化に成功した祖国の祝賀コンサートで、ロウカはチェコ・フィルに復帰した。指揮者ラファエル・クーベリックと握手するロウカ。スメタナの「わが祖国」の演奏で映画は終わる。やっぱりチェコはスメタナとドボルザークの国である。1993年、チェコスロバキアはチェコとスロバキアの二つの国に分かれた。

9月上旬まで渋谷BUNKAMURA ル・シネマ (03-3477-9264)で上映

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