「アントニア」

大竹 洋子

マルレーン・ゴリス監督
オランダ=ベルギー=イギリス合作
1995年作品/カラー/ヴィスタサイズ/オランダ語/113分
1996年アカデミー賞最優秀外国語映画賞
1995年オランダ映画祭最優秀監督賞、最優秀女優賞
ハンプトン国際映画祭最優秀監督賞
シカゴ国際映画祭最優秀脚本賞
ジェノバ国際映画祭審査員特別賞

 今、世界中の女性たちにいちばん愛されている映画、いちばん愛されている女性、それが"アントニア"である。アントニアは、戦後まもないオランダの農村に都会からひょっこり帰ってきて、因習がはびこる故郷(ふるさと)をユートピアに変えてしまう。まるで魔法使いのように。だが、魔法の杖を使うわけではない。率先して畑を耕し、種をまき、獲り入れ、村人の世話をし、悪者をこらしめ、友人たちを食卓に迎え、幼な馴染みの農夫と愛しあい、そのあいだに一人娘に孫娘が生まれ、その孫娘も娘の母となり、こうして50年近い年月が流れ、90歳になったアントニアは、ある春の朝早く、親しい人々に別れを告げる。「今日、私は死ぬわ」。

映画「アントニア」

 アントニアの回想で始まるこの作品には、次から次へと風変わりな人物が登場する。そもそもは、臨終を迎える母親に会うために、アントニアはふるさとに帰ってきた。痴呆症になっている母は、とうの昔に死んだ夫を罵倒しながら息を引き取る。そこから観客はもう愉快な気持ちになり、この心地よさは最後まで変わることがない。

 アントニアの住む村は"なんでもあり"である。不思議なことも次々に起こる。それを観客はごく自然に納得することができる。棺の中から祖母が起き上がっても、偽善者の神父が広場の天使像に殴打されても、壁のヴィーナスがウインクしても、なんだか当り前のような気がするのだ。そうだ、ここは天才ヴァン・ゴッホを生んだ国なのだと、オランダという国を改めて見直す気持ちにまでなるのである。

 女性監督マルレーン・ゴリスの4作目になる「アントニア」は、1996年のアカデミー賞最優勝外国語映画賞に選ばれた。私は昨秋の国際女性映画週間で、すでに「アントニア」を上映した。これが私の自慢である。

 アントニアに扮するヴィレケ・ヴァン・アメローイは、オランダでもっとも高名な女優である。キャンペーンで来日した彼女は、映画のイメージ通り豊饒そのもので、実物と役柄の見分けがつかない程だった。いくら有名でも53歳になると、もう良い役はまわってこないから、女優の仕事はそろそろ終わりかと思っていたけれど、アントニアのおかげで、また自信がついた、と彼女はいう。

 ともあれ「アントニア」は誰が見ても大傑作であり、感動作である。この永遠なる命の躍動を描いた映画から、生きる勇気をもらう人のなんと多いことか。

映画「アントニア」

岩波ホールで上映中 (03-3262-5252)

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