「住民が選択した町の福祉」

大竹 洋子

羽田澄子監督
自由工房制作/1997年作品
日本/ドキュメンタリ/16mm/カラー/129分

 日本人の高齢化はおどろくほどのスピードで進んでいるという。福祉行政はここ数年でめざましいほどの進歩をしたが、それでもとても追いつけないのが日本の現状なのだ。

 ドキュメンタリー映画の世界で40年以上のキャリアをもつ羽田澄子さんは、日本の女性監督のパイオニアでもある。対象をじっとみる透徹したまなざしと、懐の深いおちついた判断力、そしてその底にいつも流れている伸びやかなユーモア、羽田さんが作り上げる作品の数々は日本映画の宝物である。

映画「住民が選択した町福祉」

16mmフィルム貸出し中、問い合せは自由工房(03-3463-7543)へ

 その羽田さんは、1986年に「痴呆性老人の世界」を撮って以来、老人福祉の分野にわけいっていった。初めてふれた老人たちとの出会いの中で、羽田さんは天からの声につき動かされるかのように、「安心して老いるために」(90)を完成させた。安心して老いることのできない日本社会を、北欧やオーストラリアと比較しながら明らかにしたのである。

 そのあとで羽田さんが取り組んだのが、福祉に対する人々の意識を期待して、最新作の「住民が選択した町の福祉」である。"民主主義の土台がなければ本当の福祉は育たない"という羽田さんの考えのもと、カメラは秋田県秋田郡、人口2万3千人の鷹巣町に入った。「福祉のまちづくり」を掲げて当選した若い町長が率いるこの町をモデルに、地方自治体の福祉は一体どのように行われているか、が描き出されてゆく。

 カメラが記録した1年の間に、2期目の町長選があり、それにともなう町議選があった。新しい政策をかざす町長には、当然のように猛烈な反対派がいる。ようやく当選しても、次には手ごわい町議選が待っている。町民の関心は非常に高く、町長選にも町議選にも、90パーセント近い人々が投票にいった。そして結果を知ろうと会場になだれこむ有権者たちと、彼らに見守られながら進む開票風景。映画はこれを山場に、さあ、これから福祉による町づくりが始まりますよ、というところで終わる。

 「住民が選択した町の福祉」は、映画がもつ力の大きさを改めて教えてくれる。宇宙人との戦いをコンピューターゲームのように描くのも映画なら、私たちが日頃、何に支配され、どのような状況で生きているかを考えさせてくれる羽田さんの作品も映画である。日本の福祉は末だ志半ばかもしれないが、そこに一石を投じ、問題提起を行ってくれる羽田さんのような女性をもった私たちは幸せである。


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