付録

APPLET is here!


型破りなファンが魅力

津田  類 (演劇評論家)

 藤村冨美男が物干し竿といわれた長いバットをぶん回し、大活躍をしていた頃からだから、ぼくの虎びいきもかなり年季が入っているわけだ。それにしても、あの頃の選手はみんな個性的だった。職人的なカンのグラブさばきで、小天狗の渾名にふさわしい妙技を見せた、現在の監督の吉田義男選手のようなのもいれば、藤村のような豪快一本槍、おれにはこれしかないとばかりにホームランをかっ飛ばす者もいるといった具合で、それはたのしかった。それでつい魅きつけられ、夢中になったというわけだが、そこへゆくといまは全体にこじんまりと固まってしまった感がある。もちろんわがタイガースばかりではない。管理野球だのデータだのといった調子で、選手個々の個性が圧殺されていて、プロ野球そのものが一定の鋳型にはめられたという感じで、おもしろ味が薄くなっているのだ。

 それでも虎びいきをやめられないのは、優勝が至上命題のどこかの球団と違って、「まあええわ」のファンがいるからだ。今年はいまのところ調子がよくて、ひょっとしたらと、早くも獲らぬ狸のなんとやらの向きもあるようだが、さりとて、目算が外れても「まあええわ、来年もあるんや」とすぐに許してしまう。虎ファンのこのおおらかさがぼくはたまらなく好きだ。オリンピックでメダルがとれなかったら、鼻もひっかけない昨今の風潮からみると、この虎ファンの真骨頂なのだ。つまり虎ファンは、タイガースが勝つ負けるということより、虎ファンであることをたのしんでいるのである。世の中とにかく没個性だから、この型破りに意義があるのだ。

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