新井満さんを偲ぶ
柳 路夫
新井満さんが亡くなった(12月3日・享年75歳)。多彩な才能の持ち主であった。75歳とは若すぎる。今でも『千の風担って…』の歌声が聞こえてくるような気がする。
「Do not stand at my grave and weep 」
「 Do not stand at my grave and weep,
I am not there; I do not sleep.
I am a thousand winds that blow,
I am the diamond glints on snow,
I am the sun on ripened grain,
I am the gentle autumn rain.
When you awaken in the morning’s hush
I am the swift uplifting rush
Of quiet birds in circling flight.
I am the soft starlight at night.
Do not stand at my grave and cry,
I am not there; I did not die.」
電通マンであった。小説・歌などの創作にも意欲を燃やした(電通退職は2006年5月末日)。 1977年(昭和52年)カネボウのCMソングとして自ら歌唱した『ワインカラーのときめき』(作詞:阿久悠 作曲:森田公一)がヒット曲となる。この時代はスナックやバーでカラオケが大流行した。
1988年(昭和63年)第99回芥川賞を『尋ね人の時間』で受賞する。この作品はこの年の6月号の『文學界』に発表したばかりで7月に芥川賞が決定したのはすでにその文名が高かったからであろう。日本ペンクラブ常務理事として平和と環境問題を担当したのはあまり知られていない。
『千の風になって』は2001年(平成13年)、妻をがんで亡くしたふるさとの友人を慰めるために作曲したものであった。『Do not stand at my grave and weep(直訳:私のお墓で佇み泣かないで)』 を訳して自ら歌い、CDに録音したものを友人や希望者に配布した。それが評判を呼びポニーキャニオンからCDから発売されたり、訳詩本も講談社から発売されたりした。
2009年(平成21年)、平城遷都1300年の記念行事の一環として万葉集研究の第一人者である中西進さんから万葉集の和歌にメロディーを付けて楽曲を作って欲しいという依頼された。そこで『万葉恋歌 ああ、君待つと』を制作。万葉集の中から額田王・磐姫皇后・播磨娘子ら女性歌人の恋歌を新井さんが編纂し曲をつけた。万葉集を研究し堪能していなければできない作業である。
磐田王の歌
「秋の野の草刈り葺紀宿れし宇治の宮処仮廬し思ほゆ」(巻1-7)
「熟田津(にぎたつ)に船乗せむと月待てば潮もかなひぬ今はこぎ出出な」(巻1-8)
磐姫皇后の御歌
「かくばかり恋ひつつあらずは高山の磐根し枕きて死なましも のを」(巻2―86)
「 ありつつも君をば待たむ打ち靡くわが黒髪に霜の置くまでに」 - (巻2―87)
「 秋の田の穂の上に霧らふ朝霞何処辺の力にわが恋さ止まむ」- (巻2―88)
播磨娘子の歌..
「たゆらきの山のを峰のへ上の桜花咲かむ春へは君をしのはむ」(9-1776)
「君なくはなぞ身装はむ櫛笥なる黄楊の小櫛も取らむとも思はず」(9―1777)
新井さんの作品は次の通リである。
「ああ君待つと我が恋をれば
わがやどのすだれすだれうごかし
秋の風吹く
ああ君が行きけがなくなりぬ
山たづねたづね
むかえが行かむ
待ちにか待たむ」
心からご冥府をお祈りする。
