卑怯未練と言われたくなければやってみなはれ
牧念人 悠々
新渡戸稲造はその著「武士道」(矢内原忠雄訳・岩波文庫)の中で「正直は最善の政策なり」といった。正直(HONEST)は名誉と不可分としてラテン語及びドイツ語の語源は名誉と同一であると指摘した。つまり不正直ということは「対面を汚す」であり「恥ずかしい事」である。禽獣にも等しい行為なのである。テレビの前で頭を下げてすむ話ではない。「正直」は日本古来の美徳であった。何時の頃からかその美徳が薄れてきた。大東亜戦争で夫を亡くした夫人が「かくばかりみにくき国となりたれば捧げし人のただに惜しまる」と詠んだ。この歌を小堀桂一郎さんがその著書で紹介したのが平成9年10月である。とすればこの前から「醜き国」になったのであろうか。建材メーカーグループの川金ホールディングス(埼玉県川口市)の子会社が製造した免震・制振オイルダンバーの検査データーを改ざん。その期間は製造販売を始めた平成17年から2018年9月までだという。免震は2物件の合計6本、制振は89物件の合計1423本に及ぶ。「正直」が商売成功のカギであるのに他の屁理屈をつけるのは愚の骨頂であろう。
更に例を挙げる。中央省庁で障害者水増し雇用は28行政機関・3700人に上る。第3者検証委員会の委員長は「ズボラ、ずさん、漫然と仕事していた」という。水増し数100人以上の国の機関名をあげる。
国税庁 1103
国土交通省 629
法務省 512
防衛省 332
農林水産省 219
財務省 184
外務省 146
経済産業省 105
なお所管の労働厚生省は15人であった。
第三者検証委員会は民間の障害者雇用が50%程度なのに国の機関だけがほぼ100%に達しているのに何故、疑問を持たなかったのかといっている。「仕事というのは先手先手と働きかけていくことで受け身でやるものではない」(電通「鬼の10則」の第2項)。今の役所こそ電通の「鬼の10則」が必要である。だが「嘘」はいけない。「うつ病」や「裸眼0.1」は身体障害ではない。お役人得意の数合わせはいい加減にしてほしい。
「身体障害者雇用促進法」(1960年)の法定雇用率は2.5%である。これに達しない企業は罰金を払わされる。私にはこんな経験がある。昭和56年秋の事だと思う。当時毎日新聞の西部代表であった。市内版のトップに小倉区に住むサリドマイドの少女が就職に困っているという記事が載った。早速、総務部長に「この子をわが社に採用するよう考えよ」と指示した。採用するとすれば電話交換手(現在は廃止)が一番適していた。職場に話をすると全員反対だという。そこで私は言った.「今『典子は、今』(監督松山善三)という映画を上映している。それを見てこい。それでも反対というなら君たちの言う通りにする」。私は役員会で上京した際、たまたまけなげに生きるサリドマイド児を描くこの映画を見た。この映画に泣きぱなしであった。彼女たちの答えはもちろん「OK」であった。彼女を雇用しても法定雇用率には達しなかった。企業にとっては身体障害者の雇用は大きな課題である。中には障害者用の特例子会社を作り、仕事を用意し雇用率を達成しているところもある、政府機関の人事担当者にぜひともこの映画『典子は、今』を見てほしいと思う。DVDがある。その上で知恵を出して身体障害者4000人の雇用を目指してほしい。容易な仕事ではない。「摩擦を恐れるな、摩擦は進歩の母。積極の肥料だ、でないと君は卑怯未練になる」(電通「鬼の10則」の第10項)。卑怯未練と言われたくなければやってみなはれ…