追悼録(672)
柳 路夫
松島利行君を偲ぶ
毎日新聞のOBの同人誌(「ゆうLUCKペン」の同人で映画評論家の松島利行君が亡くなった(5月11日、享年80歳)。彼とはよく映画の試写会で出くわした。毎週4、5本の映画を見ているから当然であろう。年間見る映画は250本に達する。少年時代映画監督を志し、中学時代の卒業記念文集には映画評論を書いているぐらいである。
新潟支局時代、こっそり見た黒沢明監督の「天国と地獄」をまねた誘拐殺人事件が起きた。「映画を見た」とも言えず黙っていたという。新聞記者は「人が財産」という。若松孝二、松田政男、足立正生ら映画人の交流から日本赤軍の重信房子、太田竜、和光晴生を知り、公安の頻繁な訪問を受ける羽目になる。彼自身映画に出演している。大林宣彦監督の『女盛り』(1994年)である。主演吉永小百合の新聞記者ものである。松島君の役は吉永小百合の上司の部長であった。吉永記者の相談にのったり叱責したりした名演技を見せた。
「ゆうLUCKペン」30集(平成9年12月8日発行)の特集「竹橋ストーリ」で松島君は見た映画の薀蓄を語る。毎日新聞が入っている一ツ橋パレスサイドビルがどの映画に出て来るかを紹介する。
第一号が大島渚監督の「日本春歌考」。私と大阪社株で仕事をした武田忠治君が大島監督と京大法学部の同旧生で「創造座」という演劇集団で二枚目役を争ったことを知った。次が篠田正浩監督の「化石の森」。坂本順治監督の「トカレフ」は毎日新聞社医院が殺人犯という設定の映画である。犯人が働いている職場が「地下の印刷工場」だからパレスサイドのビルが映っているのに気づく人は少ないだろう。1階の受付が映っている。先に書いた大林宣彦監督の「女盛り」。長谷川和彦監督の「大要を盗んだ男」。外国映画にも登場する。ヴィム・ヴェンダー監督の『東京画』である。毎日新聞に掲載された松島君の訃報の記事(5月14日)に「喪主は妻でイラストライターの三留まゆみさん」とでていた。彼は再婚で20年前に奥さんとは離婚した。「ゆうLUCKペン」39集の松島君が書いた「色は匂へど散りぬるを」の中にこんな箇所がある。相手はふたまわりも違う丑年である。一緒に映画を見ての帰り、歩くのが早い彼女を引き留めるため手をつないだりする。すると友人が「お熱いですね」冷やかす。中には「まだ現役ですか」と聞く。「バカ野郎っ」と答える……
心からご冥福をお祈りする。