銀座一丁目新聞

茶説

「うしろ姿のしぐれてゆくか」 山頭火

 牧念人 悠々

山頭火に「うしろ姿のしぐれてゆくか」の一句がある(昭和6年12月31日作・50歳)。人間はその後ろ姿に境涯の影が出るといわれる。金子兜太はこの句を評して「感傷も牧歌も消え、生々しい自省と自己嫌悪も遠のいて宿命をただ噛みしめているだけの男のように、くたびれた心身をゆっくり運んでくる姿が見えてくる」と記した。

はしなくも私はその「うしろ姿」が安倍晋三首相に見える。自省も自己嫌悪も遠のいてただ政権にしがみつく男の後ろ姿である。森友問題や加計学園の獣医学新設計画に対する疑惑への対応は目に余る。小泉純一郎元首相の「3選は難しい。信頼がなくなってきている」(4月14日水戸市講演)の発言は"時雨れてゆくさま"を加速させる。宰相今や62歳。その思ひや如何に…

森友学園問題も加計学園問題も「首相案件」であるのははっきりしている。メモが明記してあるから動かせない。記憶よりメモの方が正確である。メモと言えば「松川事件」で「諏訪メモ」により被告全員が無罪になったことを思い出す。松川事件とは、昭和24年8月17日午前3時10分ごろ青森発上野行列車が東北本線松川駅近くのカーブで脱線、先頭の機関車が転落し機関士、助手など3人が死亡、旅客数名が負傷した事件である。列車妨害事件として警察は国鉄・東芝の労組員ら20名を逮捕、起訴した。第2審判決では死刑4名、14名有罪、無罪2名をだした。ところが「諏訪メモ」(大学ノートの日記帳)が出てきて事情は一変する。当時の東芝松川工場の諏訪親一郎事務課長補佐が昭和24年8月15日の午前中、東芝の団交が松川工場で開かれた時の様子をメモに取っていた。被告の一人がその団交で発言していたのでアリバイが成立。全員が無罪となった(昭和38年9月確定)。しかも「諏訪メモ」は始めから存在し検察側が不利な証拠だとして隠していた。毎日新聞によって特ダネとして報道されたことによって被告側に有利に作用した。控えめな毎日新聞はそれを社会面トップでなく地方版で報道した。それでも効果は大きかった。メモは公文書でなくとも立派に通用する。しかも人間の記憶より確かである。

山頭火は昭和15年10月11日この世を去る。享年57歳であった。辞世の句「もりもり盛りあがる雲へ歩む」である。7年前の「うしろ姿…」の句より明るい。人生を達観したのであろう。安倍首相もそろそろ桂冠の句を考えてお良い。

「もりかけも足すくうメモ春去りぬ」悠々