銀座一丁目新聞

茶説

おめえ、それでも日本の総理大臣か もぐりじゃねえのか

 牧念人 悠々

安倍晋三首相は国会で紛糾している働き方改革関連法案をこの国会で成立させたいようだ。現在19業種に認められている裁量労働制を拡大するのは問題が多すぎる。とりわけ裁量労働の1ヶ月の時間外労働時間と一般労働の時間外労働の調査データの不適切な比較をめぐるやり取りが激しかった。安倍晋三首相がその発言を撤回する不手際まで起こしている。世論調査を見ても「裁量労働制対象拡大に反対」が57%であるのに、賛成は18%に過ぎない(毎日新聞)。裁量労働制とは実際の労働時間がどれだけなのかに関係なく、労働者と使用者の間の協定で定めた時間だけ働いたと見なし、労働賃金を支払う仕組みである。財界からの要望も強く、首相も雇用改革の一つとして熱意を燃やしている。だが国民の声を謙虚に聞いてほしいものだ。

この関連法律ができると裁量労働制を採用する企業が増え、時間外手当を押さえるであろう。事実既にこの制度を採用している企業が時間外手当を抑え込んでいる。これではGDPの6割を占める国民の消費は増えない。雇用改革は「働くもの為になる」という原点に戻り考えるべきである。

話が少しそれるが友人が学生時代によく通っていた床屋があった。そこのご主人のよくいう言い草が「おめえ そこの学校の学生か もぐりじゃねえか」であった。なかなか含蓄がある。庶民感覚と違ったことを言えば「これはおかしい」と反発して出る言葉だ。働き改革法案をめぐる国会での論戦を見るにつけても「おめえ それでも日本の総理大臣か もぐりじゃねえのか」と言いたくなる。

立憲民主党の長妻昭氏が「確実に過労死が増える。労働法制は岩盤規制で、ドリルで穴をあけるという考え方は改めてもらいたい」と要求した(1月29日・衆院予算委員会)。安倍首相は「考え方を変えるつもりはない。厚労省の調査によれば裁量労働制の労働時間は一般よりも短いというデータもあるということを紹介したい」と強調した(毎日新聞)。

私もNHKテレビでこのやり取りを見た。適切な比較ではなかった。これは裁量労働制の人に「1日の労働時間」を、一般の人に「1ヵ月で最も長く働いた日の残業時間」を聞いた結果を並べていた。明らかに間違いだ。

それでも安倍内閣に支持率は高い。45%もある(不支持32%)。だが9月に3期目を迎えるが自民党総裁では「続行を望む者」41%に対して「変わった方がよい者」が44%と交代を望む者が多い(毎日世論調査)。驕るもの久しからず床屋のおやじさんに「おめえもぐりじゃねえか」と言われたらもうおしまいだ。