銀座一丁目新聞

花ある風景(659)

並木 徹

お芝居「私ん家の先に永代」

劇団東宝現代劇75人の会・公演「私ん家の先に永代」(脚本・演出横沢祐一)を見る(2月8日・東京深川江戸資料館小劇場)。友人の小西良太郎君が医者の役(吉桐松尾医院院長)で出るというので出かけた。スポニチを定年後に役者に転進した彼だがすっかり板についてきた。

舞台は永代橋東詰め交番裏にある永代荘という宿屋。此処は明治の頃、永代亭という洋食屋があった。若い文士。画家、演劇人が集まりパンの会を開いていた。資料によれば、パンの会は、作家と、画家たちが日本にもパリのカフェのように、芸術家が集まり芸術を語り合う場がいるといことで始まった。明治41年(1908年)12月、隅田川の右岸の両国橋に近い矢ノ倉河岸の西洋料理で第1回会合が開かれたという。

パンの会と縁の深い永井荷風に中州より永代橋にわる風景を詠んだ句がある。
「五月雨やただなばかりの菖蒲河岸」
「深川の低き家並みやさつき空」
永代荘のご主人・稲延弥三郎(丸山博一)は永代亭で働いていた小間使いで、当時の来客名簿を保管するなど昔の想い出を大切にする律義者。その妻が佐喜(鈴木雅)。この夫婦を中心として様々な人間模様が繰り広げられる。この夫婦、一見喧嘩ばかりしているが根は好いた者同士。その呼吸の間合いがよい。舞台の合間、ポンポン蒸気船、カモメの鳴き声など昔懐かし音を響かせる。大川情緒たっぷりだ。初めに永代荘を訪れたのは訳ありの浅草人形問屋の娘・英信乃(田嶋佳子)。「しばらくの間置いてください」という。彼女も舞台に彩りを添える。医者の吉桐は週に一度聖路加病院へ出かけるといいながら恋人の神坂葉子(村田美佐子)と逢瀬を楽しむ。ところが吉桐の夫人留子(高橋志摩子)と葉子は女学校の同級生と分かる。お蔭で吉桐との間がうまくいかなくなる。祭り見物客豊田順子(古川けい)も訪れる。順子の姉路子(菅野園子)、母てい(新井みよ子)も顔を出す。ていは昔永代亭に来たことがあるという。顧客名簿にはその名前があった。その名簿を見て懐かしがる。人間は昔のよき時代を振り返りたがるもの。駆け落ちして消息不明であった一人娘の都(梅原妙美)が永代荘にひっこり顔を出す。駆け落ちした相手にすぐに死に別れその際、借りたお金を信乃に返すため戻った。その上、孫の咲子(松村朋子)まで姿を現す。昭和35年まで健在であったパンの会の詩人・吉井勇(横沢祐一)まで登場して舞台を盛り上げる。吉井がまことにダンディである。その昔こんな歌をものしている。

「君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも」
「船大工小屋の戸口にあらはれてわれらを笑ふ晝顔の花」
やがて幕が下町情緒を残しながら静かに下りる。