雑学大学における経済学のお話
牧念人 悠々
おなじみの善行雑学学大学で横浜国立大学名誉教授の新飯田宏さんの話を聞いた(1月21日・藤沢市善行公民館ホール)。テーマは「先進資本主義経済の構造変化と反グローバリズム~所得格差とタックスヘブン」。日本でも所得格差は広がるばかり。アメリカでは人口1%の者がGDPの20%の富を持っているといわれている。弱肉強食の資本主義がここにきて一段と変質してきた。英国のEU離脱。米国のトランプ大統領の出現は反グローバリズムの典型的な現象である。経済学博士など多彩な肩書を持つ新飯田さんは家族から「経済学以外の事を聞いてはいけない」と冗談を言われるほどの経済通である。講演会後で開いた懇親会の雑談が楽しかった。
頂いたレジメと手元の資料で話を進める。各国に共通する経済構造の変化が起きていると指摘する。リーマンショックから9年、各国とも経済成長率は低迷している(日本2012年12月0.9%、2017年12月2.5%)。かっての高度成長期の面影は日本にはない。インフレ率は低く、デフレ懸念から脱却できていない(日本消費者物価指数2012年12月▼0.2%、2017年10月0.8%、当初掲げた物価目標2%はいまだに実現できていない)。世界の経済成長率は3.6%(2017年OECDの見通し)である。
なぜこのような経済構造の変化が起きたのか、まず労働人口の減少である。日本の場合を見ると、65歳以上の人口は2010年には23.0%であったものが、2060年予測では39.9%と少子高齢化が進むと見込まれている。15~64歳の労働年齢人口は2013年10月時点で7,901万人と8,000万人を下回った。今後の予測では2060年には4,418万人まで大幅に減少すると見られている。ヨーロッパで移民・難民を受け入れるのは労働人口減少の為だ。それが行き過ぎると福祉費が増え国の予算を圧迫したり、国民の職を奪うことになったりして深刻な問題が起きている。さらに中間技術者の技術の優劣によって落ちこぼれがでてきている。くわえて非正規労働が増えて賃金デフレ傾向を示す。日本では政府が春闘に3%の賃上げを要求所以である。企業の中には投資機会を的確に予想できずに生産能力を伸ばす設備投資をためらう者が少なくない。日本のGDPは消費と設備投資が大きな比重を占めるから日本のGDPが大きくならない理由がここにある。
問題はデフレ脱却のための異次元の金融政策である。日本だけではないのだが日本では金利ゼロ時代が続いている。これが「貯蓄から金利得る働く者」、「投資から利益を得る投資家」も同等に収益を得るという「近代の資本主義」の機能をぶち壊してしまった。金利ゼロは企業の内部留保を増やし、経営者の報酬の増加、株主配当の増大をもたらして益々所得格差を拡大した。貯金の利子で老後を楽しむはずの年金暮らしの老齢者が落伍者となるなど日本では要保護世帯の増加とつながっている。T・ピケテイの格差拡大の式を説明する。「資本の収益率がGDPより十分に大きいならば、資本所得比率は増加し資本分配率は上昇する」というである。所得格差対策としては所得税や資産課税、相続税率の累進度をためることを提案する。最後にタックス・ヘイブンについて言及された。西欧富裕層がオフショア(タックス・ヘイブンなどの特別優遇措置)に持つ金融資産の推計は約8兆~32兆(米ドル)という。世界のタックス・ヘイブンに保有する家計の金融資産の総額は7.6兆米ドル。世界各国が徴収できなかった税収の総額は1900億米ドルに及ぶ。アメリカでは360億ドルの税収を失っているという。講演者は言う。「問われているのは市場経済の倫理性の問題、市場に参加する経済主体のタックス・モラルの問題である」。タックス・ヘイブン国に存在する各種ヘッジファンドの投資行動に対して厳しい規制策を考案するのが有効であると提唱する。懇親会の席で「4月で任期の切れる黒田東彦日銀総裁を安倍首相はどうしますか」と質問したところ「続投でしょう」という返事が返ってきた。