銀座一丁目新聞

茶説

渡部昇一著「日本人の道徳心」を読む

 牧念人 悠々

渡部昇一著「日本人の道徳心」(KKベストセラーズ刊・2017年6月20日第一刷発行)を読む。今年の4月17日に渡部さんが亡くなっているからいわば、遺言といってよい(享年86歳)。「電車やバスに老人が乗ってきたら席を譲る」「困っている人がいれば手助けする」。これは当たり前のことである。現代社会ではこれが当たり前でなくなりつつある。この現象は戦後すべて子供に修身を教えなかった為であると著者は指摘する。修身は「理屈を言わずに教えよ」と説く。
15の徳目を上げる。私が戦前教わったことばかりである。


このほか、祖先たちの視点で物事を捉え考えようとするのが「縦の民主主義」「今生きている人たちの意見を取り入れるのが「横の民主義」というのは面白い。 明治天皇御製「目に見えぬ神に向かいて恥じざるは人の心のまことなりけり」。恥を知り心を磨くことが何よりも大切であると説く。人間の中心には心があり善行をしながら心を磨いていく。人間の行動のすべては心の動きに現れである。その意味で心を磨くことを忘れてはなるまいと思う。 吉田松陰を「大和魂」を持って生きたと著者は表現する。辞世の句を紹介する。「身はたとひ武蔵野の野辺に朽ちぬとも留めかまし大和魂」

吉田松陰が亡くなって147年後の平成18年(2006年)10月『平成留魂録』―陸軍士官学校予科23中隊1区隊史(23中隊1区隊有志編)が出版された。その前文に曰く「人生80年、戦後60年が過ぎた。私たちは何か書き残したくなった。敗戦で私たちの生き方は激変する。進んで軍の学校を選んだ私たちの戦後は苦難の道であった、敗戦の混乱の中、復員、大学進学、就職へと日本再建のために懸命な努力をして生き抜いた」。吉田松陰の志はこうして語り継がれてゆく。 この著書は渡部さんが出演したDHCテレビジョンの番組「平成の修身」(2016年1月から2017年6月)をまとめたもの。知人の同社社長・濱田麻紀子さんから送っていただいた。一時期、濱田さんも交えて月に一回勉強会を開いていたことがあった。その縁を忘れず私を思い出してくれたようだ。感謝のほかない。この秋、みんなに呼び掛けて旧交を温めようと思う。