銀座一丁目新聞

茶説

「土曜日の夜の虐殺」を演じた者の末路…

 牧念人 悠々

米国トランプ大統領の前途は極めて厳しくなってきた。コミーFBI長官を突然解任(9日)はひどい。この解任劇はトランプ大統領の「クレムリンゲート」(ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」と比べての呼称)の序曲である。その後、FBIにロシアとの不適切な接触についての捜査を中止するように求めたことが明るみに出て司法省が政権から独立した権限を持つ特別検察官を置き問題を究明することになった。トランプ大統領は明らかにニクソン大統領と同じく"辞任の道"を歩んでいる。

思い出してみるがいい。「ウォーターゲート事件」は、1972年(昭和47年)の大統領選挙戦のさなかにニクソン共和党政権の野党であった民主党本部があるウォーターゲート・ビル(ワシントンD.C.)に、盗聴器を仕掛けようと侵入した男が警察に逮捕されたことに端を発する。犯人グループが意外にもニクソン大統領再選委員の関係者であった。もちろん、ニクソン大統領は「侵入事件と政権とは無関係」とうそぶいていた。

「クレムリンゲート」はそんなチャチなものではない。ロシア政府が5年前からトランプとの関係を構築し支援してきた。民主党大統領候補クリントンを含むトランプのライバル候補たちに関する情報も数年にわたって提供してきたという。またトランプがモスクワを訪問した際、ホテルでのトランプの倒錯行為が録音・録画されている。ロシアはいつでもトランプ大統領を脅せる材料を持っているということだ。この録画がどのような形であれ公開されたらどうなるのか、単なるスキャンダルで終わるのか、大問題になるのか、予想がつかない。ロシア政府の助けで大統領になった男を民主主義の国、アメリカの国民・マスコミが黙って見逃すことは出来まい。

「ウォーターゲート事件」はワシントン・ポストなどの報道で政権内部がこの盗聴に深く関与、さらに事件発覚時に捜査妨害ともみ消しにホワイトハウスが直接関わり、しかも大統領執務室での会話を録音したテープが存在することが上院調査特別委員会でわかった。事件解明のために設けられた特別検察官が解任される出来事も起きた。今回、「ニューヨークタイムズ」はコミーFBI長官の解任をニクソン大統領が特別検察官を解任して権力乱用を非難された件になぞらえ「土曜の夜の虐殺」に匹敵すると報じた。トランプ大統領よ、まさか特別検察官まで首にすることはあるまい。

当時、ニクソン政権のこのような不正の動きに世論が猛反発し、議会の大統領弾劾の動きに抗しきれず、合衆国史上初めて大統領が任期中に辞任する事態となった。在任は2年2ヶ月であった。ニクソンとトランプがよく似ているのは“大統領とマスコミの関係"である。1973年10月26日ニクソンは報道陣に敵意をむき出しにした。「私は公職にあった過去27年間でこれほど無法で悪意のある、ゆがんだ報道を見たことも聞いたこともない。この種の気違いじみた、ヒステリックな報道で日夜責められると、報道陣に対する信頼感まで揺らぐのは当然である」(ヘレン・トマス著「ホワイトハウス発UPI」-素顔の大統領‣高田正純訳‣新潮出版)。トランプ大統領の方がもっと激しいかもしれない。 トランプ大統領はニクソン大統領と同じ道を歩もうとしている。また同じく国民とマスコミを疎外している。「土曜の夜の虐殺」を演じた者の末路は明白であると指摘しておく。