英国の総選挙とEU離脱交渉
牧念人 悠々
EUを離脱した英国の行方が気掛かりであった。人口学者エマニュエル・トッドさんが「英国のEU離脱はグローバリゼイションの崩壊の始まりだ」と指摘したからである。先に行われフランスの大統領選挙でも保革大政党の2候補が57年ぶりに敗北、EU離脱・反移民を唱える国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(48)が2位となり決選投票に持ち込んだ。恐らく決選投票の結果はEUとの協調の中道・独立系のエマニュエル・マクロン候補(39)が勝つ。これでEUの分断・回避の道筋が出来たとみるのは早計である。まだまだ紆余曲折がある。崩壊が始まったグローバリゼイションは徐々にその形を各所で見せはじめるであろう。英国はこれからどうなるのか。EUから孤立した英国は安全保障をどうするつもりか。経済をどのように運営していくのか、難問は山積する。そのEUとの交渉を国として結束して交渉にあたるためテリーザ・メアリー・メイ首相は6月8日に総選挙を決めた。「追い詰められて…」と評論した新聞もあった。多くの場合、流れに任せ無為に終わるのが普通である。メイ首相は打って出たのである。
メイ首相の経歴を見ると、メイ氏は1956年生まれの59歳。イギリス国教会の牧師の一人娘として生まれる。父の影響で政治家を志したのは12歳のときであったという。相当早熟である。名門オックスフォード大学では地理学を学ぶ。文芸評論家・高山樗牛は「どのような職業に就こうとも終生、歴史と地理の勉強だけは続けよ」と言っている。世界との歴史と地理が頭に入っている人とそうでない人では物事を判断するうえで違ってくる。「地理学」は歴史とともに軽視出来ない。
「銀座展望台」(4月19日)に次のように書いた。『英国メイ首相、2020年予定の総選挙を前倒して6月8日解散・総選挙を決める(18日)これを決断とみるか追い込まれたとみるか…
メイ首相の人気は高く支持率は50%を超える。野党労働党コービン党首の支持率は10%台である。選挙となれば与党が有利だか問題は内部の結束だ。EU離脱をめぐっては与党・保守党にも「元残留派」が多い。離脱方針を巡っても、移民規制を優先する「強硬な離脱(ハード・ブレグジット)」に慎重な意見がすくなくない。党内の結束も求められる。
ともかくメイ首相としても圧倒的な国民の信任を得てEU離脱交渉を強力に進めたいのである。要は「離脱交渉は私に任せて頂戴」というわけである。その意味では強気の総選挙である。“氷の宰相”といわれる所以である』
総選挙は与党が有利なときにやるもの。総選挙はお祭りである。何かと沈滞気味のイギリスを明るくするには全国民が参加するお祭りが必要だ。EU離脱で不安がっている国民を励ますには強い政治が望まれる。その展望を切り開けようとする総選挙である。 メイ首相は只者ではない。
米国との関係も見逃せない。1月に初めの外国首相としてメイ首相はトランプ大統領と会談。この際、メイ首相は、自分たちはお互いに「普通の人たちの利益」を最優先させるという意味で政治手法が同じだと発言している。長年続く米英の「特別な関係」は今後も変わるまい。両首脳がホワイトハウスの執務室に置かれたウィンストン・チャーチル元英首相の胸像の前で記念撮影したのを見れば両国の絆の固いことがわかる。6月の総選挙ではメイ首相の与党が圧勝するのは間違いあるまい。