銀座一丁目新聞

追悼録(631)

「お帰りなさい」(WELCOME HOME)

宮島瑞穂さんからこのほど「お帰りなさい」(WELCOME HOME)の詩をいただいた。

「私がいなくなったら、私を解き放して、逝かせてほしい
まだ 他にすること、見ることが 沢山あるの。
私のために 涙で自分を縛っては ほしくないの
幸せになって 私は十分 生きたのだから」。

(WhenIam gone, release me, let me go
I have so many things to see and do,
You must not tie yourself to me with tears
Be happy that I have had so many years.)

▲90歳を過ぎると、死を考える。いまのところいつ死んでも良いと思っている。それまで人の為世のために出来るだけの事をしたいと願う。寝る前には「気力に欠けることなかりしや。言動に愧ずることなかりしや」と己に問う。

「私はあなたを愛し、そしてあなたは 私をどれほど幸せにしてくれたか、
あなたなら わかるでしょう。
あなたのくれた愛に、私は一つひとつ お礼を言いたいの。
でも、ついに時が来て、私は独りで 旅立ちます」。

(I gave you my love,and you can only guess
How much you gave to me in happiness,
I thank you for the love each have shown
But now it`s time I travelled on alone.)

▲陸士の先輩後藤四郎さん(陸士41期)は健康の秘訣を「敬神努力浮気楽天」と教えた。そして『にこにこにっこり笑って感謝しよう』と付け加えた。「敬神」と「努力」と「楽天」は人並み以上であったと思うがあとの一つは思うようにはいかなかった。後藤四郎さんは平成17年1月20日亡くなられた。享年96歳であった。その年の賀状には「百歳も間近になりぬ初日の出」とあった。詩をさらに続ける。

「哀しみが しばらく必要ならば 私のために 少しの間だけ哀しんで、
でもそのあと その哀しみを 癒して、信じて。
別れ別れになるのは ほんの少しの間だけ、ということ。
二人のこれまでの 思い出をこころの中で 祝福できる、ということ」。

(So grieve a while for me,if grieve you must
Then let your grief be comforted by trust.
It`s only for a while that we must part
So bless those memories in your heart.)

▲陸士の仲間たちの集まりに「五輪の会」というのがある。幹事の一人霜田昭治君がこの会を立ち上げたのは「人と会えばアイデアが浮かぶ」というのが理由であった。私は常に知的刺激を受ける。東京五輪まであと4年、それまでなんとか頑張ろうという意味もある。霜田君と宮島瑞穂さんの父親・長沢義忠さんとは芝中時代同級生。その縁で私は宮島さんとの縁が出来た。先日お会いした際、松岡和子の「深読みシェイクスピア」(新潮文庫)の一部分のコピーもいただいた。これも面白く読んだのだが、どのように料理するか悩んでいる。どうも宮島さんは宿題を出すのが上手である。詩を続ける。

「わたしはそんなに遠くに 行ってはないわ、命は続いて行くものだから。
もしも私を 必要とするなら、そんな時は戻ってくるわ、
目には見えない、手で触れられない、それでも私は近くにいるから。
そしてもし心の声に耳を澄ますなら、きっときこえてくるはず
私の愛が あなたを 優しく確かに 包み込むから」。

そして いつか あなたが 独りで 来る時、
私は きっと この言葉で 迎えるでしょう、
「お帰りなさい」 

(I won't be far away, for life gose on.
So if you need me, call and I will come.
Though you cannot see or touch me, I will be near
And if you listen with your heart, you will hear
All of my love around you soft and clear

Then, when you must come this way alone
I'll greet you with a smile saying,
“Welcome Home”)
(作者不詳・訳・宮島瑞穂)

▲松岡和子は「私の翻訳は稽古場で完成する―」と言った。「私の原稿は雑談の中から生まれる」これを以て結びとしたい。

(柳 路夫)