銀座一丁目新聞

花ある風景(626)

並木 徹

石塚克彦さんの「ミュージカルへのまわり道」が本になる

亡くなった劇団『ふるさときゃらばん』の脚本家・演出家石塚克彦さんの著書「ミュージカルへのまわり道」(直筆のイラスト付き・仮題)が三回忌の11月に出版する予定で作業が進められている。

石塚ミュージカルは『ふるさときゃらばん』を立ち上げた1983年(昭和53年)から『新生ふるきゃら』時代まで32年間上演され、全国47都道府県1200自治体で4752ステージ巡演され、延べ観客動員は430万6000人に上る。世相を織り込み、環境・過疎・災害問題などをテーマに庶民と地域が主役の石塚ミュージカルを観客は感動し温かく見守ってきた。

石塚さんとの付き合いは1991年日米合作ミュージカル「Labour of Love』(愛の労働)をスポニチが協賛して以来である。この作品は日本24回、アメリカで13回公演された。石塚さんとはシアトルの公演まで一緒した。石塚さんは交渉術にもたけた人で、そこでこの作品をバルセロナ・オリンッピク芸術参加作品(1992年)にしたいという。スポニチでその協賛をしてくれという話だ。とつ国で米国の企画会社社長がいる前で断るわけにもいかず話がおのずとまとまった。「ふるさときゃらばん」は「裸になったサラリーマン」などその演劇活動でスポニチの「第4回文化芸術大賞」も受賞した(1996年=平成8年4月)。

その後の作品「男のロマン女のフマン」「パパは家族の用心棒」などすべての作品を見ている。その都度、感動した。一生懸命に演ずる俳優の眼が輝やいている。それが観客にはよくわかる。世相を見事に浮き彫りした舞台は観客を笑わせ、泣かせた。その柔和な顔に似ず石塚さんの稽古は厳しかったという。

今でも私の心の中では「レイバー・オブ・ラブ」(愛の労働)の歌声が響く。

「レイバー・オブ・ラブ
金のためじゃない
大地の不思議を知ったから
やむにやまれず身体がうずく
人間だから心が動く
愛は力さ 愛は力さ
レイバー・オブ・ラブ」

実は石塚さんの本は当初、単行本の形式で出すつもりであったようだが、石塚さんが劇団の季刊誌に連載したエッセイは毎回自筆のイラストがついた6ページ余りの力作で、全部で40回分もあり、彼のミュージカルの原点、制作現場の話、日本列島キャラバン物語、それに英伸三さんの写真を含めると型破りの分量になる。いずれも捨てがたく、その芸術を後世へ伝えたい、と思うとページ数はおのずと増える。本は300頁を超える、B5変型の体裁になった。初版はとりあえず3000部。要はお金がかかるということ。そこで『ふるさときゃらばん出版する会』の会員を募集する破目になった。会員に「一口1万円の募金」していただこうというわけである(窓口・ひらつか順子・090-7207-3921)。もちろん、多々益々弁ずで一口以上でも構わない。これまで「ふるさときゃらばん」のミュージカルを見た人430万人以上もいるのだからと世話人の一人である私は納得、安心している(連絡・090-1466-6920)。

なお、出版社は農山漁村文化協会。いい本を出している良心的な出版社である。私の手元にも「聞き書き愛知の食事」(定価2900円)など日本の各県の食生活を紹介した「日本食生活全集」30冊がある。ときおり愛用している。