時代は常に激動 トランプ大統領の登場の意味
牧念人 悠々
激動するこの世にどのような絵を画くか、どのような対応をするかが常にリーダー・識者に問われる。問題は時代の流れを見る目である。端的に言えばグローバリゼーションの崩壊が始まり国家の在り方が問われる時代になったということである。1月20日に誕生するドナルド・トランプ米国大統領の政策は不透明と言われるがトランプとて所詮“身の丈”以上の政策は打ち出しえない。アメリカは内向きの国になってゆく。世界の警察官は過去の栄光である。米国は「格差社会」にあえぐ中間層に雇用の機会を与えなければならい。フォードがメキシコでの工場建設を断念し、トヨダのメキシコ工場の新設も阻もうとするのも国内の雇用の増大のために他ならない。公共事業・減税政策を取る。国内産業再生には保護主義を取らざるを得ない。
「貿易は世界に広がっている」。力は衰えたといってもアメリカは世界情勢の中で重大な役割を担っているのは変わりがない。覇権国家は隙を見せれば法を無視して野望をむき出しにする。アメリカがいくら保護主義と言ってもおのずと限度がある。「偉大な国取り戻す」というトランプは外交面ではロシアとは親善外交を展開、中国とは強硬態度で臨む。ピーター・ナヴァロ著‣赤根洋子訳「米中もし戦わば」(文芸春秋・2016年12月20日第2刷)を読む限り戦争の起きる確率は70%以上である。対中国外交は日本にとって大切な課題となる。
今後テロは続発するであろうが国と国の戦争も起こり得る。その意味では米国がTPPを離脱してもTPPは中国封じ込めの戦略的意図もあったもの。トランプを説得すればいずれは賛成するであろう。日米同盟のさらなる強化は言うまでもない。沖縄の辺野古移転問題でもめている場合ではない。
現実には何が起きるのか。まずEUを離脱する国が出てくる。さしずめイタリアであろうか。EUは徐徐ながら崩壊を辿る。エマニュエル・トッドは英国の離脱を「EU崩壊の始まり」と解説したがすでに8年も前の2007年、フランスの元外相ユベール・ヴェドリーヌはその著「国家の復権」(原題「歴史を続けること」2009年8月1日・訳橘明美‣草思社刊)でグローバリゼーションの残酷な格差を指摘している。さらに国際的取り組みを実行する主体は国家しかないとして「国家の復権」を強調する。領土・国民・主権を持つ国家とは能力があり、本来の務めに力を注ぎ民主化のプロセスに参加し他国と協力することができる国家であると意義付ける。
「格差社会」は世界的に広がっている。日本とて例外ではない。要保護受給者は214万5千人(昨年7月調べ)。ますます増えるであろう。前掲の本によれば、実体経済と金融経済との間にある隔たりは異常なもので、世界貿易額2004年8兆ドルに対して金融取引額は1155兆円と貿易額の150倍であったという。これは市場原理で調整される枠をはみ出している。
EU、アメリカを悩ましているのが難民・移民問題である。国家の脆弱によって内乱・経済弱者・福祉政策のひずみで難民・移民が増大している。各国で国境にフェンスを設けたり警備を強化したりしている。受入国にとっては雇用や福祉費用の増大などの問題を引き起こす。フランス、ドイツに極右政党の台頭は理由のないことではない。勢いはさらに増すであろう。
過激派テログループの行動計画によれば2020年までは「全面対決」である。いたるところでテロが起きる。1日午前1時15分ごろトルコ・イスタンプールでナイトクラブがテロに襲われ銃の乱射で39人が死亡多くの負傷者を出した。場所も時間も特定されず随時随所で行われるテロは防ぎにくい。
最期に中国に触れたい。いま中国は南沙諸島に軍事基地を作り潜水艦を多数製造。空母まで備えるなどここ10年軍事費を増大し続けた理由は世界一の軍事大国になるためであった。1839年英国との第1次アヘン戦争から2045年の大東亜戦争終結まで中国を侵略し植民地化した国はフランス、ドイツ、イギリス、ロシア、アメリカ、日本である。この106年間の屈辱を中国は忘れてはいない。日本など眼中にない。中国の頭の中にはアメリカしかない。だが日本は日中戦争の教訓は「不戦」であることを肝に銘じて「平和外交」に徹底しなければならない。
古人曰く。「家貧しくして孝子出ず。国乱れて忠臣出ず」動乱の時代に応えて有徳の見識ある士が出るのを期待したい。