銀座一丁目新聞

花ある風景(619)

並木 徹

「弁天さん精進誓う初日の出」悠々

友人霜田昭治さんから句誌「松の花」12月号が贈られてきた(12月31日)。この句誌に私が本紙「安全地帯」(平成25年2月1日号・「想夫恋歌えば悲し春の宵」)で紹介した同期生横山信夫君夫人節子さんの句集の記事が再録されているからである。久しぶりに横山さんの句を拝見して懐かしく感じた。同封された手紙によれば「俳句のおかげで今も吟行と称してあちこち出かけて元気にやっております」と近況が伝えられていた。主宰者の松尾隆信さんも上田五千石に師事された方で句誌「松の花」を創刊して18年になる。五千石さんの俳句理念であった「眼前直覚」「いま・ここ・われ」を継承されておられる。巻頭におさめられた句のうち「世阿彌配流地沛然と戻り梅雨」に目が留まった。世阿彌が将軍義教に疎まれ佐渡に配流されたのは71歳の時。同じ年頃の松尾さんは感慨ひとしおであったろう。

久しぶりに拝見する横山さんの句は達者である。「なでしこや鬼子母神像黒ぐろと」などは吸い込まれてしまう。白い小さな花を持つなでしこは可愛い子供であろうか。鬼子母神は愛子母とも天母ともいわれる。「黒ぐろと」の表現は絶妙。なでしこの花言葉は「純愛」「才能」。歌人・鳥海昭子はこう詠んだ。「八月の川原に咲くナデシコのなみだぐましよ今もむかしも」。横山さんは仏像がお好きなようである。「横山節子集」にも『弁財天に創刊祈る小春かな』とある。

弁財天はもともと音楽技芸の神だが鎌倉時代から財福施與の神として知られる。江の島弁天・竹生島弁天・宮島弁天が有名。私も弁天さんが好きである。だが、嫌われてお金には縁がなくなってしまった。

横山さんは「松の花」の創刊同人である。結社誌の名は五千石の「みんなみはしらなみいくへ松の花」の色紙の句からとったもの。

私の好きな横山さんの句がいっぱいあった。
「胡弓の音今も愛しき風の盆」
「山肌を疾走したり冬の瀧」

この句誌で横山さんの句以外に私が気に入ったのが「白葱のあまさ女の嘘まこと」関口恭代

自然から学ぶことが多いが白葱にも人生の哲学が潜んでいようとは知らなかった。女性の感覚は鋭い。しかも生活に根ざしている。怖いというべきであろう。女が怖いのがよくわかった。
横山節子さんへ挨拶の句を贈る。

「弁天さん精進誓う初日の出」悠々