銀座一丁目新聞

茶説

映画「君の名は」の想定外の人気の秘密

 牧念人 悠々

ふと思い立って新海誠監督の映画「君の名は」を見る(11月28日・府中東宝シネマ)。新海監督が3年ぶりのオリジナル長編アニメだという。午後12時15分上映。客の入りはまばらであった。8月26日から上映されたこの映画は想定外の興行収入を上げた。総収入200億円を超えた。宮崎駿監督のアニメ映画「千と千尋の神隠し」(興行収入308億円)以来28年ぶりだ。新海監督のこれまでの映画の興行収入はそれぞれ1億を少し超えたところであった。この映画は閉塞感ただよう時代の壁にみごとに反応した。筋は実にわかりにくかったが美しい映像に描かれる物語と音楽に観客は満足した。新海誠著「小説 君の名は」(角川文庫・平成28年10月15日22版発行・初版は6月22日)まで購入する。明らかに「君の名は現象」が起きている。

「5次元にからかわれて それでも君を見るよ また『はじめまして』の合図をきめよう 君の名を追いかけるよ」(「夢灯篭」作詞作曲野田洋二郎)。

映像はきれいであった。アニメとは思えない出来栄えであった。「RADWIMPS」の歌がよく、映画に溶け込んでいた。物語は女子高校生三葉(声の出演・上白石萌音)と男子高校生瀧(声の出演・神木龍之介)の夢を見て心と体が入れ替わるという不思議な現象を軸として展開してゆく。三葉には祖母と妹の四葉がいる。町長の父親とは別居している。授業に万葉集が出てくる。「誰そ彼と我をな問ひそ九月の露にぬれつつ君待つ吾を」(巻10-2240)。黄昏時の語源だ。映画の一シーンにさりげなく登場させるのは心憎い。1000年ぶりという彗星が接近、人口1500人の糸守町という田舎の村に激突、大災害を現出する。東日本大震災・熊本大地震と日本列島はこのところ災害が次々に襲われている。人ごとではない。女子高校生の祖母が説く「結ぶ」。今の時代に最もアッピールする言葉だ。人と人が結び、地域と地域とが結び合う。命と命が結びつながってゆく。祖母が組紐の機を織るその姿が結びの象徴だ。神職を捨てて政治の世界に入りこんだ町長の息子を嘆くのであった。

「僕らタイムフライヤー 時を駆け上がるクライマー 時のかくれんぼはぐれっこは もういいよ」(「なんでもないや」movei edit ・作詞作曲野田洋二郎)

二人はどうなるのか。瀧はアルバイト先の上司と友人と連絡の途絶えた三葉の消息を尋ねる。瀧のスケッチブックを見たラーメン屋の店主がその場所を昔の糸守町であると教える。その町は彗星の爆発で廃墟と化した。市立図書館にある「犠牲者名簿」に三葉の名も四葉も祖母の名前があった。瀧は大学を卒業し職も見つかり働く。自分の願いを痛切に知る。「あとすこしだけでも一緒に居たかった。もう少しだけでも一緒に居たかった」。突然すれ違う電車の中でお互いの姿を認めて再会する。二人が同時に口を開く。「君の名は」と。映画はハピーエンドで終わる。観客には快く映る・・・映画はフアンタジーだが、観客はそれぞれの自分たちの体験と二重写しとなり感動、涙する。もともと10代20代の観客の対象が50,60代まで広がった。日頃うっ積する思いを持つ今の50,60年代の人々は思いもかげない映画に感動・共感したに違いない。新海監督、43歳。まさに働き盛り。さらなる飛躍が期待される。

『映画を見るのは夢を見ること明日の日の出は6時32分』(12月1日日の出・東京)