銀座一丁目新聞

安全地帯(520)

川井孝輔

ゴンドラからの紅葉観賞

ぐずついた天候が漸く落ち着いた頃、例月に届くバスツアー案内に、珍しい「ドラゴンドラ」からの紅葉鑑賞があったので、参加した(10月21日)。出発が松戸と近いので、集合時間さえ気にすれば後は気楽なのが取り柄。定時出発のバスにすべてお任せの旅だから、約3時間の車中も頭を空にしての快適さがある。ボケ老人よろしく、高速道を湯沢で降りたのは分かったものの、後は何処をどう走ったのか、皆目見当がつかなかった。着いたところは、大源太湖畔と云う処【1】。勿論初めての場所で奇妙な名前だが、現地での資料を調べると、大源太山(1598)の麓にある湖の由【2】。付近一帯を「大源太キャニオン」【3】と称し、青少年の旅行村があり、キャンプ・山歩き等が出来るとのことである。ツアーは湖の周遊【4】と、橋上からの峡谷美【5】を楽しむことにあった。残念なことに、昨年に起きた地滑り災害で、湖の周遊路が一部決壊し、目下復旧工事のさなかであった。周囲1.5㎞の小さな湖は手ごろの散策路ではあったが、展望する景色の中に、無粋な起重機が見えては、感興をそがれた思いがぬぐえない。湖畔周遊の観光を終えると、早や昼の時間になる。昼食は、「湯沢錦鯉ランド」の看板が大きいレストハウスだが、地図上の場所は不明。新聞情報で覚えのある山古志村が近いのか、見事な鯉を飼って居る。餌を投げると、大口を開けて、争いながらの餌獲り合戦は壮観【6】。鯉の種類が図示【7】されて在ったが、純白の鯉は【8】珍しく思えた。

ゴンドラ乗り場に着く。此処は田代ロープウエーの麓駅。山頂駅迄ロープウエーに揺られ、田代高原を散策し、ドラゴンドラの山頂駅から苗場に下山するのが、本日の本命である。ここ田代のゴンドラは91人乗りとあって、ツアーバス2台分の客を載せて出発。標高802mから1413mの山頂駅まで2175mを静かに進行する。周囲の山はすっかり色を変えている【9】が、若干時期の早いせいか、今一つの感じがした【10】のは贅沢と言うべきか。峡谷に細い流れ【11】が見えて眺望は良い。途中瞬間地上高230m【12】を味わう。時間にすれば10分足らずだが、乗客のほとんどがカメラを上げて,懸命にシャッターを切っていた。田代高原には田代湖がある。山頂駅からドラゴンドラの山頂駅迄の一帯を田代高原【13】と呼称するようだ。右手には田代湖【14】が見えた。矢張り山と湖の有る眺望は何とも言えない。ダム湖でもある田代湖は周囲10km【15】程だが、奥の方にダムサイトがあるらしい。左手方面が散策路で、ゆったりした高原が広がっている。逆コースで喘ぎ乍ら、山頂駅にやって来る人が見えるが、此方からは緩い下り【16】になるので助かる。其のうえ天気晴朗で、高原の空気を腹一杯に吸い込みながらの散策は、文句の言いようがない気持良さだ。杖を持参はしたものの、独り気ま々な歩きなので不要。大した距離でもないのに約30分程をかけて歩いたが、心地良いひと時ではあった。

ドラゴンドラの山頂駅【17】は高原の南の端になる。標高1346mのこの地は、スキー場と言うよりは、むしろ高原散策の基地と云った感じだ。本格派のスキー客は、さらにリフトを使って先に行くのだという。大きなレストランがある他は之と云ったものは見当たらず、スキーのオフ・シーズンは意外に閑散とした風情であった。気になる、「ドラゴンドラ」とは、コースのアップダウンが、ドラゴンの動きに似ている事と、「ドラゴン」と「ゴンドラ」を併せひねって付けた名前と聞く。苗場のプリンスホテルが運営しているが、シーズンオフに使用する名称とか。こちらに来る途中ホテルを遠望したが、豪華と云うにふさわしい大きなものであった。麓駅の標高は921mで標高差は425m。田代ロープウエーの標高差と比べると、2/3程と少ないが,延長は5481mと日本一を誇る。ゴンドラは定員8名だが、総数106基を数える由で、この時期20~30分をかけ、ゆっくりした紅葉観賞を図っているらしい。

本命のドラゴンドラには、4人宛が背中合わせだが前方に座って、田代高原の山頂駅を後にした。見晴らしが申し分ない。貸し切り車に乗った感じだが、左右にも眼を見やって、貪るように眺めを楽しむ。遥か遠方に二居湖【18】が見え、色付いた山々【19】【20】が過ぎてゆく。田代ロープウエー程の地上高は無いが、地表面近くでアップダウンが多いので視界の変化が激しく、【21】~【24】その都度気持ちの中にどよめきを感じた。標高差は約400mだが延長5481、約20分の旅は、流石に乗ったという感じで、十分であった。