安全地帯(519)
信濃太郎
牧内彰子さんの「息吹」を見る
東京・六本木の国立新美術館で開かれている「日展」を見る(11月9日)。目指すは染織の牧内彰子さんの作品である。予め受付で写真撮影の許可を得た。腕に黄色テープをつけた。2階美術工芸の陳列室5号室にあった。題して「息吹」。残念ながら御客は少なかった。
実は11月1日(火曜日)にもこの美術館を訪れた。月曜日でもないのに休館日であった。仕方なく開催していた「ダリ展」を見た。原爆実験を扱ったきのこ雲の絵が印象に残った。「レダ・アトミカ」のあるダリにとっては核兵器の出現と破壊力は強い衝撃だったのを今更のように知る。「日展」は気が焦るが外出の意欲がわかない。思いついたのが木枯らしの吹いた9日であった。天が“遅れた罰”を与えたようである。
彰子さんから頂いた手紙には「暗く迷い憂鬱な時間の中より堅く閉ざされていた扉を開け丁度地中の岩盤の奥底より一筋の隙間から湧き出る水の勢いの如く活力・生きる力が大きく大きく広がって活動の気配そして羽ばたきを感じていただければ・・・」とあった。
作品を見た瞬間、暗いなあとは感じた。「何か悩みがあるのかな」と思った。その思いはすぐに消えた。確か岩盤のなから水が湧き出る力強さを感じた・・・・。これまでに見ない迫力にある作品であった。シャッターを押す。いささか飛躍するが私は日本経済に今こそ、必要なのは岩盤からあふれ出す水の勢いだと思った。
その運営を批判されて改革に乗り出した新生「日展」にはふさわしい作品である。入選にもっともふさわしい。戦後70余年、日本社会は利益を追い求め、己の城を築き。権力者は己の権力を固めに狂奔した。他者を寄せ付けず権益と権力保持に汲々とする。政界は言うに及ばず、実業・企業の世界でも各種団体でも同じである。その岩盤を打ち崩し、ほどばし出る水の勢いがない限り発展はありえない。異常の金融緩和をしても目標の物価上昇2パセントは達成できず、国の借金が1400兆円を超える日本経済。今こそ経済に横たわる既得権益という岩盤を勇断で打ち崩す時である。
染色「息吹」はそのことを明示している。芸術は政治の出来事を先取りする。その作品「息吹」を茲に紹介する。