銀座一丁目新聞

茶説

PKO部隊の駆けつけ警護に思う

 牧念人 悠々

井戸に落ちかけた子供をみればすぐに助けるのはあたり前である。孟子は「惻隠の情」といった。「惻隠の心なきは人に非ず」。困った人を見れば助けるのが人情というもの。武士道は卑劣な行動、曲がりたる振る舞いほど忌むべきものはないと断じた。戦後の日本人にこの「惻隠の心」が消えてしまった。

稲田朋美防衛大臣、南スーダンに派遣された自衛隊のPKO部隊を視察する(10月10日)。11月に交代するPKO部隊に「駆けつけ警護」という新たな任務を命ずるための現地視察であった。他国のPKO部隊、在留邦人からの救援要請に武器を持って警護の当たるためである。これまで日本の自衛隊は他国から「助けてくれ」と頼まれても「日本の憲法ではそれはできない」と断ってきた。不人情な国であった。それが一連の安保法制の改正でできるようになった。やっと常識的な国になった。南スーダンは政府側と反政府側が今なお対立しており、反政府側は徹底抗戦を主張しているので予断を許さない。参院予算委員会(10月11日)で7月、南スーダンで起きた政府軍と反政府軍の衝突について野党側が「戦闘ではなかったのか」と質問したのに政府側はあくまでも「衝突であった」と突っぱねた。戦闘か衝突か。日本語はまことにあいまいである。現場にいる自衛隊員は「戦闘と衝突」のはざまに直面する。いずれにしても現在、国連に加盟し、国際協調と国際平和を願う日本がいたずらに手をこまねいているわけにもいくまい。

稲田大臣が現地に7時間ぐらいいて何がわかるかという疑問がある。現地に行けばある程度危険度はわかる。紛争のある国では情勢は変化する。危険状態にあるから国連の平和維持部隊が派遣される。常にリスクは存在する。戦死者が出る恐れとて十分ある。後方支援に徹したドイツ連邦軍が50名以上の戦死者を出してことがあるがドイツは引き続き軍事支援を継続している。極力戦死者を出さないようにするのが部隊指揮官のリーダーシップである。

日本にはPKOに参加する際に満たすべき5条件がある。
(1)紛争当事者間で停戦合意が成立
(2)受け入れ国を含む紛争当事者の同意
(3)中立的立場の厳守
(4)以上の条件が満たされない場合に撤収が可能
(5)武器使用は要員防護のための必要最小限に限る(1992年成立のPKO協力法による)。

要は現地の情勢の変化である。予想外の事が起きる。その際の対応である。独断でやらざるを得ない場合が出てくる。情勢を判断して、状況の変化に応じて「駆けつけ警護」の趣旨に照らして最良の方法を選び対処するほかない。兵学者、林子平入った。「義は勇の相手にて裁断の心なり。道理に任せて決心して猶予せざる心を言うなり。死すべき場所に死し、討つべき場所に討つことなり」。
その意味では11月から南スーダンに派遣されるPKO部隊の任務は極めて重い。