銀座一丁目新聞

花ある風景(603)

並木 徹

座☆ⅡEの「おはようとおやすみなさいのあいだに」を見る

座☆ⅡE・第10回記念公演・作演出・松本祐子の「おはようとおやすみなさいのあいだに」を見る(17日・東京中目黒・「キンケロシター」)。10人の出演者の一人、堀裕子さんは元スポニチ社員(部長職)で私の秘書をしていた。定年後、明治座アカデミ-(2期生)で演劇の勉強をして同期生たちとお芝居を楽しんでいると聞いていた。2年前にスポニチの元総務部の連中が私の卒寿の会を開いてくれた時、久しぶりに見る堀さんの顔は引き締まり凛としていた。聞けばいま演劇をやっているとい言うことであった。今回10回目にして初めて劇場まで足を運んだ。女同士の結婚式も赤い「座☆ⅡE」の半被を着たかっぽれ踊りまであって堪能した。お芝居が言わんとしたことは「正直に生きろ」ということであったと受け取った。

舞台は高柳徹家(佐藤敏雄)と佐々木忠司家(中沢由紀男)の二つの家族を軸にして4人の姉妹・高柳松子(長女・つちだまろ)、佐々木梅子(次女・森本よし子)、高柳桃子(三女・渡辺陽子)、藤岡百合子(四女・堀裕子)がそれぞれに存在感を示しつつ進んでゆく。その中にあって高柳家の次女万葉(吉川知香)その友人瓜生真奈美(清水美枝)がレスビアンという意外な展開を見せ女同士の結婚式まで発展する。38歳まで独身であった万葉は真奈美に会ってはじめて好きになれる人を見つけた。それがたまたま女性であったというに過ぎないという。さらに四女の義母・藤岡しなえ(森が丘俊子)が老人の孤独を訴え、家族の絆を説く。高柳家の長女で嫁に行った宮部珠江(野口純子)が夫の浮気を嘆き、母親に夫婦生活の在り方を問う。「我慢だわね」と言う松子の声に実感がこもっていた。客席から笑いの声が起きる。みんな胸に覚えがあるのだろう。私も笑った。ぼけが始まって時折「歯医者になりかった」とわめく高松徹は「自分の人生は間違っていなかったか」と、たまたま万葉を訪ねてきた真奈美にいう。万葉との愛に悩む真奈美には共感できる問いであった。四女百合子が義母よしえに自己主張をする。台詞も明瞭ではきはきしていた。初めて見る舞台の堀さんの姿は定年後演劇で生きる宣言に思えた。平均年齢67歳。10年の歳月は10人の座員たちをたくましくした。楽しいお芝居に時間が過ぎるのを忘れてしまった。