銀座一丁目新聞

追悼録(599)

オバマ米大統領広島訪問の意義

いささか旧聞に属するがオバマ米大統領の広島訪問について振り返ってみたい。原爆の投下により犠牲となった広島、長崎の死者に思いを致すためである。伊勢志摩サミットの後の5月27日、オバマ大統領は広島を訪問、原爆慰霊碑に献花した。驚いたことにその日の朝、地元中国新聞に毎日新聞社会部で一緒に働いた松尾康二君(特定非営利活動法人「音楽で平和を運ぶ」理事長)が全面広告を出した。オバマ大統領に「戦争を廃絶してください」(Eradicate All War)を訴えた。私には新聞に全面広告とは思いもつかない。「核廃絶」でなく「戦争廃絶」の言葉が鋭い。広島で生まれた人でなければ発せられない表現である。松尾君は昨年7月広島で「人の心に平和のとりでを築くコンサート」開いた。原爆手帳を持つ松尾君は平成26年8月、NPO法人「音楽は平和を運ぶ」を設立。広島を原爆の街から音楽の街に、というのがNPO法人の設立目的である。彼の父親はカッパエビセン・カルビーの創設者である。今年も7月広島で音楽会を開く。

「こときれし子をそばに木も家なく明けてくる」
「あわれ七ヶ月のいのちの はなびらのような骨かな」
「降伏のみことのり 妻を焼く火いまぞ熾りつ」(長崎の人、松尾あつゆきさんの「原爆句抄」から)。
原爆の悲惨さを訴えるこれ以上の表現はない。

作者松尾あつゆきさんは種田山頭火や尾崎放哉を生んだ『層雲』に所属、長崎原爆投下の日、大浦の勤務先に居た。浦上に居た妻子4人を失い、動員中の長女も被爆した経歴を持つ。
オバマ大統領の訪問について私は次のような感想を持つ。「訪問は遅すぎる。任期あとわずか8ヶ月。これが就任早々であればオバマの名を不朽のものにしたであろう。広島を訪れないで「核軍縮」「核廃絶」を言うなかれ。就任早々世界に向けて「核廃絶」を訴えた米国のオバマ大統領などは真っ先に訪問すべきであった」。
広島でのオバマ大統領の演説は心に響いた。
「広島と長崎で残酷な終焉へと行き着いた第二次世界大戦は、最も裕福で、もっとも強大な国家たちの間で戦われた。そうした国の文明は、世界に大都市と優れた芸術をもたらした。そうした国の頭脳たちは、正義、調和、真実に関する先進的な思想を持っていた。にもかかわらず、支配欲あるいは征服欲といった衝動と同じ衝動から、戦争が生まれ。そのような衝動が、極めて単純な部族間同士の衝突を引き起こし、新たな能力によって増幅され、新たな制限のないお決まりのパターンを生んでしまった」。だとすれば「核廃絶」だけで良いのか。「母の手に英霊ふるへおり鉄路」(高屋窓秋)。戦争は悲劇を生むばかりである。
「Eradicate All War」と私も叫びたい。

(柳 路夫)