銀座一丁目新聞

安全地帯(503)

信濃 太郎

臥龍点睛と帽子の展覧会

「臥竜点晴」と言う言葉がある。梁の画家張僧繇(ちょうそうよう)が金陵安楽寺の壁画に白竜を描いて、その晴(ひとみ)を書きこんだところ,たちまち風雲生じて白竜は天に上ったという故事による(広辞苑)。そこから「わずかなことで、全体がひきたつたとへ」に使われる。

実はこのほど「帽子の展覧会」に柄にもなく行ってきた。その時、帽子が「点睛」の役割を果たすと気が付いた。芸術作品と言うべき帽子はその人を際立てる。もちろん帽子の似合う人とそうでない人がいるが・・・。

ブログにその時の感想を書いた(6月3日)。
『知人の出倉恵美子さんの案内を頂いたので石田欧子さんの帽子展覧会に行った(会期は6月3日から6月7日まで)。女性だけでなく男性もいたので安心した。試着してもよいように並べられてあった女性の帽子はなかなか美しいものであった。芸術品であると感じた。帽子を少し見直した。場所は港区南青山5-6-10 5610番館。
案内状には「パリの後で ジョルジュ・サンドへのオマージュ」とあリ、サンドの言葉が書かれていた。「最も幸福な人間とは、自らの仕事の技量を身に付け、自らの手で働き、自らの知性で表現する・・・」終わって久しぶりに友人の堤哲君とコーヒーを飲んで雑談した』

私の背中を押したのが毎日新聞時代のOB堤哲君であった。初めは出かけるつもりはなかった。彼が「行く」と言うメールをくれた。久しぶりに「一緒にコーヒーでも飲もう」と誘いに応じた。コーヒーを飲みつつはたと「臥龍点睛を欠いた人」に気が付いた。ほかならぬ安倍晋三首相である。日本と言う大壁画に“アベノミック”を描いたのは良いのだが晴(ひとみ)を入れる段階になって既特権と言う岩盤をこじ開けられず構造改革が進まず立ち往生してしまった。消費税10%引き上げを断念してしまった。急速な老齢社会・少子化社会の到来に社会福祉政策が対応できないのだ。目標の2%の物価目標も達成できずGDPの6割も占める個人消費の落ち込みで成長率のプラス成長も実現が難しくなっている。

ひとみを描くどころか嘘をつく始末である。先に15年10月に予定されていた10%の消費税の値上げを1年半延期するに際して「リーマンショックや大震災がない限り確実に実施する」と再三言明したのにまた再度の延期だ。「必ず実施する」と断言しておきならの再延期だ。本来なら総辞職・解散が理にかなった。それもやらずに「参院選挙で国民の信を問う」という。国民の信を問うなら衆議院選挙である。新聞が「約束と異なる判断」という見出しをつけたがこれは大ウソつきという意味である。何処まで迷走を続けるつもりか。「アベノミックス」のエンジンをさらにふかすというが出るのは黒い煙ばかりであろう。ここで必要なのは「政治家の知性の表現である」端的に言えば帽子を取り換えることだ。手あかのついた帽子ではこの時代を御して行けない。新しい帽子を着用して「晴」(ひとみ)を入れるべきである。そうでなければ日本(白竜)が風雨生じて天に上ることができないであろう。