銀座一丁目新聞

茶説

日本に求められるのはホセ・ムヒカか、田中角栄か

 牧念人 悠々

月刊「文芸春秋」6月号は特集「強欲資本主義と決別せよ」で世界一貧しい大統領ホセ・ムヒカ(ウルグアイ前大統領)にインタビューして「日本人への警告」を掲載している。この人は大統領官邸に住まず、郊外の古びた平屋暮らしをし、給与のほとんどを寄付し月千ドルで生活をしている人だ。「成長を求めるな幸せを求めよ」と語る。

この月刊誌は5月号で「日本には田中角栄が必要だ」-ロッキード事件40年ブームの秘密―と題して元秘書・国会議員・元秘書・元番記者の3人による座談会(司会・御厨貴)を載せている。二つの記事とも興味深く読む。ホセ・ムヒカには文句なしに敬服し、田中角栄については人間的魅力を感じるものの『金権政治』を政官界にはびこらした罪は大きいといまなお思う。

ところで、今の日本で求められる政治家はホセ・ムヒカか田中角栄かどちらかと問われたらどちらを取るか。私はホセ・ムヒカを取りたい。今、安倍晋三首相が給料 月収2,304,000円(年収40,176,000円)の半分でも寄付して、自家用車で官邸に通勤すれば日本国内の雰囲気は一変する。日本人はもともと質素を旨として育てられた。それが日本の高度成長とともに「消費は美徳」とおだてられ「使い捨て」を当たり前のように思ってきた。それが幸か不幸か日本の経済成長を飛躍的に伸ばした。昨今は「格差社会」がひどくなり「生活要保護世帯」が激増、200万人を突破した。富裕層や有力企業はパナマ文書が明らかにしたように税金対策に狂奔する。これでは国の財政は先細りする。それなのに「一億総活躍時代」をキャチフレーズにしてGDP6兆円を掲げ、国民を駆り立てる。資本主義の行く先は「強欲」である。それが「資本」の本質だ。「決別せよ」と言ってもそう簡単には行かない。ホセ・ムヒカは「愛情を育むこと」「子供を育てること」「友人を持つこと」が大切だと説く。この世界が天国になるのも地獄になるのも国民次第だという。「強欲な資本主義」を「愛情・育児・友情」を基調とした政策で温かく包み込めというのである。

「芸能・スポーツの突出した出来事は時代を先取りする」。イギリスのサッカーチーム「レスター」に学べといいたい。「なせば成る何事もなさぬは人の為さぬなり」。人口30万人の町レスターに生まれたサッカーチームの話だ。創設以来132年ぶりの快挙に優勝パレードには25万人の町の人々が祝福した。チーム総年俸わずか75億(リーグ20チーム中17位)。万事お金に狂奔する世界で奇跡を起こす。他のチームがお金を掛けてチーム強化を図っているときに見事な成果をあげる。64歳の監督は「選手たちの集中力・決意・スピリットが優勝をもたらした」と語った。岡崎慎司選手(30)は「奇跡ではなく必然だ」という。これをスポーツ界の出来事といってはいけない。経済も成長、成長とGDPにとらわれ過ぎると足元をすくわれかねない。ホセ・ムヒカはわれわれに問うたではないか。「私たちは幸せに生きているのか」と。強欲か、幸福度か、我々は鋭く問われている。