花ある風景(596)
並木徹
「百人一首」の流行を喜ぶ
NHKテレビの夜のニュースで漫画「ちはやふる」(作者・末次由紀)が若者の間で流行、「百人一首」がブームになっていると報道していた(5月11日)。漫画には興味がないが「百人一首」が詠まれているというのは良い。早速、近くの府中新町センターの図書館にその本を借りに行った。ところがマンガ本はなかった。府中の他の図書館も置いていないという返事。その代りに持ってきたのが映画「ちはやふる・上の句」(3月29日上映)のチラシであった。映画に3ヶ所府中の町が出てくるという。その夜(5月12日)駅近くの映画館で「ちはやふる・下の句」(監督・脚本・小泉徳宏)を見た。「カタログ」(620円)の裏表紙に「はなよりほかにしるひともなし」のかるたの絵があった。上の句がすぐに出てこなかった(上の句・もろともにあはれと思ㇸ山桜)。午後7時35分からの上映であったせいか、観客はまばらであった。映画は期待したほどではなかった。それでもゆきずまったときは「楽しかったときをイメージすればいい」と言う示唆は参考になった。また「個人戦も団体戦と同じです」と言う仲間たちとの絆の大切さを教えられた。
私たちが子供のころは正月のカルタ取りは「百人一首」であった。ネットで「ちはやふる」を調べてみると、「発売日 : 2008年05月13日 定価 : 本体429円(税別)。小学校6年生の千早が出会ったのは、福井からやってきた転校生・新。大人しくて無口な新の特技は小倉百人一首競技かるたである。千早は、誰よりも速く札を払う新の姿に衝撃を受ける。新も千早のずば抜けた「才能」に目を見張る…」と出ていた。いやはや8年も前の話である。本の題は在原業平朝臣の「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれないに水くくるとは」からとる。「百人一首」には恋の歌が43首もある。「忍ぶれど色に出でにけり我が恋は物や思うと人の問うまで」(平兼盛)など「百人一首」には恋の歌が多いので皇室では教育上の配慮から「能楽」から題材をとった「能かるた」をされるという。
手元に朝日新聞が調べた「百人一首」ベストテンがある(平成26年12月13日)。一位は「田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」(万葉集の原型は「降りける」)である。私も好きな歌である。英訳すれば「Coming out from Tagos nestled cove, I gaze: white, pure white the snow has fallen On Fujis lofty peak.」(リービ英雄著「英語で読む万葉集」・岩波新書)2位が「花の色はうつりけりないたづらにわが身世にふるながせし間に」(小野小町)…10位は「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」(猿丸大夫)。「百人一首」は藤原定家が知人から山荘のふすまに張る装飾用の色紙を頼まれて書いたという。定家にしても今「百人一首」がボケ防止や認知症に効果があるとは知るまい。定家が我が心境を問えばたちどころに「ももしきや古き軒端のしのぶにもなほあまりある昔なりけり」(順徳院)と答えるであろう。