米国の大統領選挙報道を振り返る
牧念人 悠々
本紙は今回の米国の大統領選挙について選挙民の政治に対する変化を指摘しながら一貫して最後は民主党のヒラリー・キリントン候補(68)と共和党のドナルド・トランプ候補(69)の一騎打ちになるだろうという見通しの下で報道してきた。インディアナ州の予備選選挙でトランプ候補が圧勝(5月3日)した結果、本紙の予想した通りになった。そこで本紙の報道を検証してみたい。3月1日号で次のように書いた。
「今回の米国の大統領選挙は少しばかり様子がおかしい。予備選・党員集会が集中する3月1日の「スーパーチューズデー」でほぼ大勢は決まる。序盤4州で共和党はドナルド・トランプ氏(69)が3連勝、民主党はヒラリー・クリントン氏(68)も3勝した。不動産王・トランプ氏は予想外の躍進であり。ヒラリー氏は苦戦しながらもサウスカロライナ州で圧勝、今後の弾みをつけた。これまでの戦いを見ると時代の底流には「既成政治対する嫌悪感」と「社会主義への願望」がかいまみえる。ここで見落としていたのは「力のアメリカ」への願望である。オバマ大統領が「和」を強調するあまり「世界の警察官」の役割を減らしてきた。もちろん米国の財政状況の悪化と言う要因もあった。
2月3日の銀座展望台に次のように書いる。『米国大統領選挙に向け民主、共和両党の候補者指名争いの初戦になるアイオワ州党員集会で民主党はヒラリー・クリントンがバーニー・サンダースに辛勝した。「民主社会主義者」を自称するサンダース候補の今後の動向は注目に値する。「格差是正」は国民の共感を呼ぶ。私は最終的にはクリントンの勝利とみる。共和党は予想に反して過激な言動で知られるドナルド・トランプを押さえテッド・クルーズが勝利した。アメリカの大統領の力は衰えてきたといえまだまだ影響力は大きい。誰が大統領になるかその行方は気にかかる』この時点ではヒラリー氏に決まるものと楽観視していたところがあった。そうなるかもしれない。だが、アメリカ国民の間から「社会主義」と言う言葉から嫌悪感が消えつつあるようで、『民主主義社会主義』のサンダース氏が意外と善戦をしている。注目に値する。一方トランプ氏は過激発言が逆に魅力を呼び、人気を高めている。競争相手のニュージャージ州のクリス・クリスティー知事(53)が指名争いから撤退を表明(2月26日)し、トランプ氏の支持を表明する事態となった。このままいけば、共和党の大統領指名候補はトランプになるであろう。ワシントンポストの異例の社説(2月25日)「共和党指導者はトランプ氏の大統領候補者指名獲得を阻止すべきだ」はトランプ氏の大統領候補指名者と見通したことを裏付けるものであろう。その後、共和党の幹部からトランプ候補引きずり落としの工作も報道されたが選挙民の激流の前にかき消されてしまった。
「人種の坩堝」と言われ、ほどばしるエネルギーが社会を発展させ「アメリカのドリーム」を実現させてきた。それが経済のグローバル化、ヒスパニック系住民の増加。富の偏在から「格差社会」を招来する。有権者には「格差是正」が心地よく響く。「過激発言」は鬱積した不満の解消剤になる。どこでその過激さを許容するところがある。トランプ氏の支持の広がりが性別や年齢層にとらわれないのはそのためであろう。この指摘はその後の推移を見ても正しかったといえよう。問題は11月の大統領選挙の行方である。私はこう書いた。『アメリカは独立宣言から240年。そろそろ「既成政治の基盤」に反逆する者が出てきてもおかしくない。江戸幕府は265年(1603年~1868年)で幕を閉じた。新しく登場する輝ける顔が民主党のヒラリー氏か共和党のトランプ氏か、それは爆発するマグマの大きさによって決まる。アメリカには「政治の世界一寸先は闇」と言う便利な言葉があるかどうか知らないが、この言葉で締めくくる』。さらに言えば「人は変化を求める」。とすれば、想定外の事が起きるかもしれない…