銀座一丁目新聞

追悼録(593)

先輩後藤四郎さんを偲ぶ

陸士の先輩後藤四郎さん(陸士41期)がなくなって11年が立つ。恒例の「みはた会」(第55回)が今年も開かれた(4月4日・東京・アルカデア市ヶ谷)。集合場所は靖国神社境内の靖国会館前。満開の桜は雨に濡れて情緒豊かであった。正午に出席者10人全員が集まり、会館前で記念撮影する。世話人の石松勝さんの案内の手紙には「今年の干支は丙申(ひのえさる),丙申は『形が明らかになり果実が成熟する年である』である。60年前の昭和31年を思い返してみると、この年は『もはや戦後ではない』と言われて神武景気となり日本が国連に加盟、ソ連のフルチョフが絶対的な権力を持っていたスターリンを痛烈に批判した年であった」と記され「今年は果たしてどんな年になるでしょう」と疑問を投げかけていた。記念撮影後、遊就館でガラスの額縁に収められた321連隊の軍旗と対面する。敗戦時、後藤連隊長(平成17年1月20日・97歳で死去)の独断で全陸軍の歩兵連隊で唯一焼却せずに残された軍旗である。ここでハプニングが起きた。いつも司会をする及川光代さんが大阪から出てきた母子に声をかけ「残された321連隊の軍旗」のところに案内してきた。軍旗の説明役は伊室一義さん(陸士61期)。聞けば15歳の少女のひおじいさんがフィリピンで戦死、一度、靖国神社に行きたいと母親にせがんではじめてきたのだという。及川さんも伊室さんも後藤さんが進めていた「何でもいいから一日一善やること」を期せずして実行したわけだ。

この後、ホテルで懇談する。321連隊で参加したのは今年も連隊旗手であった石松勝さん一人だけであった。5月の誕生日が来れば96歳。桜に詳しい伊室さんが嵯峨天皇と地主桜にまつわる話をする。千年たった今。地主桜が「御車返しの桜」と呼ばれるようになったという。高尾にある森林科学植物園にも咲いているそうだ。小川美子さんは自宅で今「御車返しの桜」が花を咲かせていると皆をおどろかせる。横須賀防衛協会会長・防大協力会副会長でもある小山満之助さん(陸士60期)が今年の防大の卒業式の模様を語る(卒業式3月21日)。今年の防大卒業生は60期である。すでに2名の女性護衛艦艦長が誕生、また、首席で卒業した女性自衛官が期待していたのに結婚して退職したと残念がってもいた。後藤さんの甥森田康介さん(防大2期)は息子が防大33期で将補として福岡で任務についており、森田家は軍人一族であったと話をする。梶川和男さん(59期)は後藤さんが建築材料ベストンを扱っていたころの苦労話をする。その際、後藤さんの商売上手を石松さんが付け加える。昨年も参加された高橋喜彦さん、利島雄之助さんも近況を述べる。話は尽きず予定より2時間も延長する始末であった。来年も4月3日「みはた会」を開く。

(柳 路夫)