銀座一丁目新聞

茶説

安倍政権の前途にさらに不安を増す

 牧念人 悠々

先に本誌「茶説」(11月1日号)で『「一億総活躍時代」というような標語が生まれるには我々が知らないよほど困った状態に日本が置かれているのではないかと疑いたくなる。歴史は繰り返す。とすれば、安倍政権はあと1年も持たないことになる。そうでないことを祈る』と書いた。そこで友人霜田昭治君の肝いりで同期生で統計学の権威・島村史郎君をかこんでささやかな勉強会を開いた(12月5日)。いただいた「日本財政と社会保障政策」などの資料に基づいての島村君の説明に私の漠然たる危惧が単なる危惧でないことが確かめられた。話を聞きながら感じたのは大東亜戦争の末期、心配しながら「危ない、危ない」といいつつ敗戦を迎えた当時と今の状況が「戦争」と「経済」と事情が異なるにしても良く似ていることであった。

日本の国と地方の借金は1343兆円(2014年度)。これはGDP(480兆円)の2.8倍になる。「進め一億火の玉」を掲げた昭和19年でさえ国債残高はGDPの2.04倍であった。戦後日本はハイパーインフレーションに見舞われた。このため通貨の切り替え、預金封鎖が行われて高率の財産税が課せられた。戦時中に発行された国債は殆ど無価値となった。

国の借金を国際比較(2013年)でみると日本、243.2%、ギリシャ、175.0%、イタリア、132.5%である。ギリシャは通貨危機に見舞われている。EUの助けがあって一時小康状態を保っているに過ぎない。これから見ると明らかに日本も危険水域に入ったといえよう。島村君は識者3氏の予測を紹介する。浅井隆(経済評論家)は赤字国債の残高がGDPの3倍を超える2017年頃に財政破綻が起きると予想する。榊原英資(経済学者・元大蔵官僚)はこのまま赤字国債を発行し続けると一般市民の家計の貯蓄率の減少のため国内資金で赤字国債を調達できず国外資金に依存せざるを得なくなる。このため高金利で調達する必要に迫られ今後5~10年の間に財政破綻が生じると予測する。小黒一正(経済学者・元大蔵官僚)は巨額の赤字国債の発行によってマネーストックが増加して2020年ごろにハイパーインフレーションが起きると予測している。3氏の予測は私の1年よりは遅く3年、あるいは5年、長くて10年である。島村君は5年後に危惧の念を抱くとしている。

ところで財政再建の方法として
①、税率の変更または新税の創設によって税収を高める。
②、経済成長によって税収の自然増を図る。
③、歳出を削減する。
この3つの方法がある。現実的にはこの3つの方法が併用されるであろう。安倍政権は主に②の方法に頼る。だから5年の内にGDP600兆円の目標を掲げる。日本の潜在成長率0~1%の間で、むしろ2040年頃からマイナス成長が予測されている。このGDP600兆円の目標は実現不可能と多くの識者が指摘している。であれば国民に痛みを問う①と③の方法を断行するほかない。これを実現するのはかなりの困難を伴う。平和に慣れ、政治は大衆迎合主義に流れ、国民の間に自分だけがよければよいという「利己主義」が瀰漫している。この日本で強い痛みに耐えられるか疑問である。

日本の「租税負担率」と「社会保障負担率」は25.1%。15.0パーセント。他の国はアメリカ25.6%、8.9%。イギリス37.5%、10.8パーセント。ドイツ28.0%、23.7パーセント。フランス37.6%、24.6パーセント。スウェーデン51.5%、19.2%などとなっている。

日本の課税率が欧米の主要国と比較して低率である。それにもかかわらず歳出の増加分を特例国債の発行によって賄ってきたのはいびつである。特例国債は財政法上認められていないので一般行政費が税収で賄えないため発行する(毎年特例国債法を制定。発行)。

こう見てくると財政再建は急務である。それにもかかわらずこれに対する政策が不十分であるといわざるを得ない。流れに任せているようにしか見えない。島村君は「財政の歳出と歳入学の均衡を一時も早く取り戻すことが急務である。このためには歳出で毎年増え続ける社会保障費を減額し歳入で税制の改革が必要だ」と主張する。この危機を日本自身で切り開いていかねばならない。不退転の決意と覚悟がいる。今の政権にその力があるとは思えないのがまことに残念である。