安倍晋三政権の前途は険しい
牧念人 悠々
懸案の安保法案が成立、総裁任期もあと3年もある安倍晋三政権だがその前途は険しい気がする。ひょっとすると倒れるかもしれない。何故だといわれても具体的な証拠があるわけではない。漠然たる感じである。思いつくままを記す。まず安倍改造内閣の発した「一億総活躍時代」と言うキャッチフレーズである。なんとなく戦時中の「進め一億火の玉」の標語を思い出す。日本は「言霊の国」。言葉には霊力がある。軽軽しく言葉をもてあそんではいけない。この標語の生れた昭和19年の10月20日には「一億憤激米英粉砕国民大会」が開かれている。天災としてこの年の6月23日「昭和新山爆発」、12月7日東南海地方大地震起き、死者998人が出た。その標語が生まれてから敗戦まで1年ももたなかった。だからこのほど開かれた「一億総活躍国民会議」は”緊急対策、看板ありき”で中身は新鮮味に欠けた(10月29日初会合)。何のために「一億総活躍担当相」(英語では一億と言う言葉はない。MINISUTER FOR PROMOTING DYNAMIC OF ALL CITIZENS)を設けるのか。胡散臭い。他の大臣がそれぞれに職務を全うすれば「一億活躍」が出来るはずである。つまりこのような標語が生まれるには我々が知らないよほど困った状態に日本が置かれているのではないかと疑いたくなる。歴史は繰り返す。とすれば、安倍政権はあと1年も持たないことになる。そうでないことを祈る。
外敵は「経済」である。今回、新しい三本の矢を掲げた。Ⅰ、GDP600兆円達成、2、希望出生率1・8%の実現、3、介護離職「ぜろ」をめざす。目標を掲げるのは悪い事ではない。GDPの成長は「労働力を増加すること」「生産設備が増加すること」「技術が向上する事」にかかっている。毎年人口が減少している日本で労働力の増加を望むのは無理な話である。もっとも労働力調査では今年4月から6月の雇用総数は5267万人で3年前と比べると121万に増えてはいる。だが今後は多くは望めない。日本のGDPは2013年480兆円、2014年487兆円である。今年は辛うじて500兆円を超えるであろうか。
日本のGDPのピークは1997年の523兆円である。バブル全盛期の1991年は475兆円であった。安倍政権はGDP600兆円を達成するのは2020年ごろとするが「技術向上」の望みは十分あるものの企業の設備投資意欲は期待ができず「無理な話」と経済専門家は言っている。すでに中国の経済成長率は6%台に陥り、さらに下落の傾向にある。中国の経済状況はもろに日本に影響する。これに中国の共産体制が変わればなおさらである。ソ連共産党政権は70年で崩壊した。中国もその時期が間近かに迫っている。共産党政権崩壊70年説を取れば中国の変革は2019年ごろとなる。
次に懸念されるのが国債の暴落である。国債の保有高は885兆円(2015年2月)である。国の予算は毎年赤字予算である。2015年度で見ると一般予算96兆3420億円のうち税収が54兆5300億円、残りを国債36億8600億円の発行で賄っている。いつまでも財政赤字を続けるわけにはいかない。国債を含めた国の借金は1167兆1000億円(2015年末)。財政赤字は金利の暴騰を招く恐れは十分ある。このままの状態が続けばいつか国債価格が下落し、場合によっては暴落しかねない。経済学者の中には「米国の金利が上がれば要注意」と警告する人もいる。日本の経済はかじ取りを一歩あやまれば累卵の危機にあるといえる。
いずれにしても日本は危機線上にあるようだ。「一億総活躍時代」をそう捉えたい。日本の向う道が「増税」と「ハイパーインフレ」しかないというのではあまりにも無策である。「経済は生きもの」。日本人の知恵で乗り切るほかない。