銀座一丁目新聞

 

安全地帯(464)

市ケ谷 一郎


学科嫌い


読売新聞「編集手帳」(2015年4月25日)に戦前の旧制高校生の蛮カラが<論語・孟子を読んではみたが酒を飲むなと書いてない><論語・孟子を読んではみたが酒を飲めとも書いてない>ヨーイヨーイデカンショと面白い。昔の人はと、感心しながら老生の若かったころを思い出した。

老生も本誌主幹の牧氏も陸士(陸軍士官学校の略称)出身の第59期同期生である。一般の方はかく言うと無骨一点張りの融通が利かぬ鬼のような軍国主義の塊の連中と思われているかも知れないが、自分から言うのもおこがましいが、反面、花も実もある情誼の士でもあるのもお判りいただきたい。年齢も旧制高校生と同年齢の10代後半、まだまだ元気のいいいたずら小僧だ。ご承知無いかも知れないが、いくさの学科や訓練ばかりでなく、一般の学生が勤労動員され軍需工場で働いている中、旧制高校並の学業や電気工学(無線)、機械工学(自動車エンジン)でシボラレていたのだ。退校ヲ禁ズ、酒、タバコ厳禁、常時、先輩である起居を共にする教官の監督のもと(世に言う格子無き牢獄か?)、もちろん、サボることも出来ないが、そこは適当に活路を見出し息抜きを考える。その一端だが、かつて先輩の作った面白い軍歌?で内心、抵抗したのを思い出し長いがご披露する。もっとも、偉そうな顔をして教育する先輩教官も候補生の時はこの歌を唄ったはずだ。これが軍隊教育の面白い所でもある。

「おれは学科は大嫌い」     軍歌集 雄叫(発行 偕行社)
水島周平(陸士の前身中央幼年学校10期生)作詞(リパブリック賛歌の譜)

1乞食袋(書籍・筆記具納入)を重そうに ラッパの声で集まって
 教室さしてゾロゾロと  行けば数学よ

2シンコステータの三角が  やっと済んだと思ったら
 座標・原点・放物線  これが解析か

3理学博士じゃあるまいし  加速度なんか知るものか
 頭が四角や三角に  なるは重学よ  (物理学)

4釘かミミズか知らないが  頓珍漢の語学など
 やっても役には立たないよ  俺はナポレオン

5孔子や孟子が酒飲んで  一杯機嫌でほら吹いた
 でたらめなんか知るものか  いやな漢文じゃ

6昔もむかし大昔  兼好法師や貫之が
 寝言を書いた国文は  溶けた水飴か

7紙がおどって珠が飛ぶ  煙が出たり火が消える
 俺らが見たらこの理化も  やはりキリシタン

8七千年のおいぼれが  ほんとらしく述べたてる
 だれが真面目に聞くものか  ひどいホラ吹き奴  (歴史)

9石が黒いも青いのも  さっぱり俺には無関係
 この世の中に山河の  あるは当たり前  (地学)

10下手な理屈をこねまわす  三段論法、帰納法
 ギリシャの昔の馬鹿者が  遺したヤクザもの  (論理学)

11大工や左官のまねをする  図学なんか要るものか
 のん気な奴の仕事には  至極適当じゃ

12山の形や水の色  写真の便利も知らないで
 珍しそうに紙に書く  画学は間抜けもの

13忠孝仁義といまさらに  もったいらしく言うけれど
 催眠術に違いない  すぐに眠くなる  (修身)

14世がさかさまになったらば  時文が役に立つだろう  (支那語)
   このまっすぐの世の中にゃ  まるで不必要

( )は筆者解説

好き好んで使命感に燃えて入校したものの、普通学、軍事学や訓練にシボられ、敗戦の憂き目に会い、上記学業が果たしてどのくらい戦闘に必要だったのか。もう全部とっくに返納してしまった。往時の言葉とて難しいところは、適当にご判読ください。老生の、夢になったはるか若かりしころの思い出のお粗末。有り難うございました。