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フランス映画祭横浜’98上映作品2 「天使が見た夢」 大竹 洋子
フランス/1997年作品/カラー/105分 今年のカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受けたのが、この映画の二人のヒロイン、イザとマリーを演じた二人の若い女優、エロディ・ブシェーズとナターシャ・レニエだった。イザは前向きで明るい性格の持主であり、マリーはやさしいけれど、どこか投げやりで暗い面がある。この対照的だが、現代っ子という共通点をもつヒロインを、二人はそれぞれ見事に演じて、きわめて納得のゆくカンヌ映画祭の審査結果であった。 フランス北部、ベルギーの国境に近いリールの町に、 20歳のイザがリュックサック姿で現われる。男友だちを頼ってきたのだが、あいにくベルギーに出稼ぎに行ってしまったあとだった。お金もなく身寄りもないイザは、通りがかりの人の口ききで、町の縫製工場で働くことになる。ミシンもろくにかけられないイザは大失敗をして、すぐにクビになる。ところが、職場で知り合ったばかりのマリーも一緒に工場をやめてしまった。イザはマリーのあとについて彼女のアパートに行く。イザの想像よりずっとよい部屋にマリーは住んでいた。こうして二人は共に暮らすことになった。マリーが住むアパートは知人の母娘のもので、その母娘は交通事故で意識不明になり、入院しているのだという。イザは娘のサンドリーヌの日記をみつけ、みずみずしい恋心を記した文章に感動する。やがてイザは、サンドリーヌの日記の続きを書くようになった。溌剌としたイザに比べて、マリーはほとんど無表情で、自分をもてあましているように見える。しかし二人はよく気が合い、そろって町に繰り出しては男たちを引っかけたりする。こうやって過ごす二人の無軌道な毎日に、少しずつ変化が生じるようになった。マリーが町の金持ちの息子クリスに恋をしたのだ。イザの忠告もきかず、マリーは恋に溺れてゆく――。 監督のエリック・ゾンカは 1956年生まれで、これが初の長編劇映画になる。フランス語による原題はLa Vie Revee des Anges だから、直訳すれば、天使たちが夢見る生活ということになるのであろうか。イザとマリー、それに最後にはかすかに意識をとりもどすサンドリーヌもまた、天使なのかもしれない。三人の若い女の子たちが体験した人生の重み。イザは自責の念にかられて、見ず知らずのサンドリーヌの病室を訪れるようになる。母親はすでに死んでいた。だが、回復は絶望と思われていたサンドリーヌが、イザの語りかけに応ずるようになるのである。一方、マリーはクリスに捨てられ、自暴自棄になる自分を叩きつけるかのように、アパートの窓から飛び降りて命を絶つ。積極的に人生を切り開いてゆくイザにも、病的なまでに傷つきやすいマリーにも、監督は夢見る若者への共感をこめて、平等に応援歌を贈っている。 映画の最終のシーン。白い労働着でイザがきりっと工場で働いている。部品の組み立て作業である。赤いマニキュアがはげかけていたイザの指先が、今はすっかりきれいになっている。多分、イザはマリーが死んだこの地に踏みとどまって、サンドリーヌの面倒をみるのであろう。 イザに扮するエロディ・ブシェールは、美少女スターとして人気が高く、彼女に合わせてイザの役柄が設定されたという。マリー役のナターシャ・レニエはこれが 3本目の新人だが、この曖昧な役どころにぴったり重なって、カンヌではナターシャ、ナターシャの大コールだったときく。ほかに、現在のフランス映画界がもっとも嘱望している男優、グレゴワール・コランがクリスを演じている。横浜のフランス映画祭には、ゾンカ監督と二人の主演女優が参加した。公開未定。問い合せはクレスト・インターナショナル(03−3589−3176)へ。 このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。 |