2006年(平成18年)1月1日号

No.310

銀座一丁目新聞

茶説

これで証券会社の商道徳は救われた

牧念人 悠々

 みずほ証券が大量の誤発注を出した問題で、ジェイコム株の買い手に1株91万2000円で現金決済、みずほ証券の損失が約400億円となった。東京証券取引所のマザーズ市場に上場したジェイコム株を「1円で61万株売る」としたのは誰が見ても間違いだとわかったはずである。それにもかかわらず98社の証券会社が買いに殺到、大手証券会社5社だけでジェイコム株の発行済み株式の100パーセント超を保有するという異常事態となった(12月13日毎日新聞夕刊)。人間は間違いを犯すものである。それに弱みにつけ込むのは人のすることではない。街では1000円の買い物をして5000円札を出したのに店が10000円札と間違えて9000円のお釣をくれたとしてもちゃんと「これは多すぎますよ。はい、5000円」と返す人情を持ち合わせている。仲間のみずほ証券の過ちにつけ込んで、しかも相手の間違いも指摘せずも儲けを企むとお金の亡者となったとしか思えない。と思っていたら、証券3社が利益全額を返上、「投資者保護基金」などへの拠出を考えているという。他の証券会社も見習うようである。一般の投資家もその利益を差し出したらどうか。与謝野馨金融・経済財政担当相がこれら証券会社の行動を見て「顧客の注文を取り次ぐのではなく、自己売買部門で間隙をぬって売買するのは証券会社として美しい話ではない。経営者は行動の美学を持つべきでだろう」と述べた(12月13日毎日新聞夕刊)。当然である。このような大臣がいるのは嬉しい。与謝野大臣の発言の毎日新聞の扱いは5面の一段である。私なら一面のトップにする。ところが朝日新聞は社説でこの発言を「返上への流れ」を作ったように見る事が気懸かりだとし、さらに「言われた側が圧力を感じたとしても不思議ではない」と私とは正反対の論評している(12月16日)。私は大臣の発言を当然だとするのに社説は圧力だとする。この違いはどうして起きるか。論語は「人は利益のままに任せると恨みが多くなる」とさとす。最近読んだ崔仁浩著「商道」(徳間書店)には「商いは人であり、人は商いである」とある。お粗末とはいえ人がおかしたミスにつけ込んで巨利を得る事は商きないではない。商いに対する理解の違いから来るのだと思う。人情の行われない世の中にしているのはマスコミにも大きな責任がある。これではますます金権亡者の世の中になってゆくであろう。

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