2006年(平成18年)1月1日号

No.310

銀座一丁目新聞

いこいの広場

(4)
藤田 東悟

−オカリナ造り−

 

 前回カメムシが私のオカリナ造りの作業小屋に非常に多く飛来し、カメムシが大発生した年は雪が多いとNHKのラジオで放送していたと書きましたが、ここ数日の各地に大雪が降っているとの報道にその言い伝えがまさに本当になるとは驚いております。昨今人から人への口伝えが少なくなってきているのではないでしょうか。お爺さん、お婆さん達の知識、知恵、昔からの言い伝えを埋もれさせないで、お爺さん、お婆さん達には多くを語っていって欲しいと思います。

 さてオカリナ造りを志、早1年4ヶ月が過ぎやっと自分で納得出来る音色とピッチ(音の高さ)のオカリナが常時出来るようになりました。今までお地蔵さん、薬師さん等のかなり細かい細工物を粘土で造って来た私にはオカリナはそんなに難しい物とは思えなかったので、2〜3ヶ月で出来ると軽く考えていた私にとってはこんなに時間が掛かることは大誤算です。それ程オカリナ造りは難しいです。お地蔵さんを造る時は、造った時より乾燥と焼くことにより約10%〜15%程度収縮します(土によりこれよりも少ないもの、多いものも在ります)のでそれを見越して大きく造り、焼き上げれば良いのですが、オカリナも同じように造れば良いと思っておりましたがそのような安易な考え方ではだめでした。オカリナは楽器です。玩具(実際に市場に出ているオカリナには非常に多い)ではありません。オカリナのピッチ(音の高さ)は内部の空洞の容積によって決まり容積が大きくなればピッチが低くなり小さくなればピッチは上がります。ですから低い音のオカリナは大きく、高い音のオカリナは小さいのです。私は石膏型で雄型、雌型を造りその型によりオカリナを造っておりますので常に内部の容積は同じはずで、造りたては何時も同じピッチ(音の高さ)のオカリナが出来るはずですが、同じオカリナが出来ないのです。作るたびに微妙にピッチ(音の高さ)が違うものが出来てしまいます。また乾燥した後のピッチと製造時のピッチの違いが同じにならず、ばらばらなピッチの違いとなり統一性が無いのです。
 焼きあがった物も同じです。そこで一つ一つの製造時、乾燥時、焼成後のピッチの記録を取り詳細に検討をしましたが、なにがなんだか、どうしてなのか、どうしたらこのピッチの誤差を無くす事が出来るのか分かりませんでした。又ピッチと同じように重要なものに音色が有ります。いかに雑音のない澄んだ音色のオカリナを造れるか、この2つの問題の解決を目指し思考錯誤の毎日で早1年4ヶ月が過ぎてしまいました。そのためにその都度石膏型を新しく造り直し結果として450Kgもの石膏を使用しており、試作品も1000個を下らない数となりました。この調査は焼き上げてみないと最終結果が分からないと言うことで非常に大変な調査でした。しかし調べれば調べるほど分からなくなりました。でもその試行錯誤の休日返上の1年4ヶ月を過ごした結果、非常に音色、音程共満足の出来るオカリナを造ることができるようになりました。理由は分かりません。どうして出来るようになったか私にも分かりませんが体が分かったのかもしれません。やっとわたしも本当のオカリナ造りの職人になれたのかもしれません。

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