銀座俳句道場 道場試合第5回決着!!  

8月の兼題は 「夏の海」 「原爆忌」 「向日葵(ひまわり)」 でした。

講評: 今回は選評に代えて、ある作品を紹介したいと思います。
     松尾あつゆき
         八月九日原爆、二児爆死、四才、一才、翌朝発見す
        こときれし子をそばに、木も家もなく明けてくる
         長男また死す、中学一年
       炎天、子のいまわの水をさがしにゆく
         自ら木を組みて三児を焼く
       とんぼう、子を焼く木をひろうてくる
          翌朝、子の骨を拾う
       あわれ七ケ月のいのちの、はなびらのような骨かな
         子の母も死す、三十六才
        くりかえし米の配給のことをこれが遺言か
       なにもかもなくした手に四まいの爆死証明

  
    佐々木 巽
      未亡人泣かぬと記者よまた書くか
     
       松尾あつゆきは長崎の原爆で、被爆した長女と二人遺された。
       佐々木巽は、日露戦争に従軍した海軍軍医、後山口県で開業、
       昭和13年春死去。無季俳句を書き、この句は無季反戦俳句の
       代表句。
       今夏は、首相靖国神社参拝問題で、マスメディアも「熱い夏」で
       あった。記事、特番が溢れる中で、私はこの一句を思った。

       「紹介」と書いたが、「記憶していただきたい」作品なのである。

さて今回、「天」に道場主の作品を据えることは、私としても色々考えた。
       何より、道場主が仰天するかもしれない。しかし、「1945年の恋」
       は、私を捉えて放さなかった。1945年、昭和20年の暑い夏。
       あの夏にも向日葵は咲いていたのだろうか。眼前の向日葵の輝きに、
       56年前の夏が重なる。戦時にも、戦時なればこそ深い思いの恋の記憶。
       戦時下の青春。輝く言葉で、戦争というものの無慙が伝わる。
       この一句を、私は胸中の平和句集に「記憶」する。

       酷暑の夏が嘘のような秋風、夏のお疲れが出ぬようお大切に。

 

 

【入 選】

原爆の日やカザルスの「鳥の歌」     美沙
 原句  カザルスの「鳥の歌」聴く原爆忌
 夏の海レジ少年の耳飾り         小島弘子 
ぬばたまの夜の種子降る夏の海      青木佳之
 謙虚なる向日葵憲法第一条        青木佳之 
番犬の居眠りてをり原爆忌          芽衣子
向日葵や砂に埋もれていく眠り      青木由弥子
テーブルの姫向日葵や予後二人         清七
少年のごと花言葉問う大向日葵     高木みどり
原句  ひまわりの 花言葉問う君 少年のごと
ひまわりの畑に行く気 今は無し        埜馳

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削)

 

望郷の 想いたぎらす 夏の海          沢畠 毅

原爆忌 殴ってやりたい トルーマン

向日葵も 雨乞いしてるか お日様に

 

試験する 魚雷の弁を 夏の涛          清七

音楽祭 「長崎の鐘」 原爆忌

 

冷たくて 初め戸惑う 夏の海          葉笑

砂浜で すべて忘れる 夏の海

 

再会を 約束せずに 夏の海           美原子

家出する 勇気持ちたし 向日葵

 

原爆忌 その日赤児は 恋もなく         河彦

灯篭流し 生命(いのち)を燃やし 原爆忌

蝉の声 原爆忌ゆえ 永らえて

 

ひまわりや 畑いっぱい 夏あふれ        蒼流

ひまわりや 暑さ吸い込み いきいきと

太陽に 向かいひまわり 屹立す

向日葵も見ず夏は過ぎ              沙羅双樹

 

松島を 浮かべて青き 夏の海          芽衣子

向日葵や 大任果し 帰路につく

 

夏の海で 泣いてばかりの モノクロ写真    堀裕子

       添削  泣いてばかりのモノクロ写真夏の海

原爆忌 共に忘れない 東海村の怖さを

立秋(あき)が来て なお元気盛んな ひまわり達

         

夏の海 わだつみのうた 湧きあがり      高木みどり

原爆忌 土壌学者の 祈り長く

    添削 土壌学者の祈りの長く原爆忌

 

底知れぬ 沼の蠢き 原爆忌          小島弘子

頚細き 向日葵海を見つめおり        

 

事の終り 枯れ向日葵の天昏く         未沙      

わだかまる 一語小さし 夏の海

弱き者 屠る列島 原爆忌

 

日本中テトラポットが 夏の海         埜馳

夏の海テトラポットが 威張ってる

落とされた方が悪いと原爆忌

郷愁呼ぶ 向日葵畑 ゲームの中 

 

江の電の 窓いっぱいに 夏の海        ちあん

レプリカの ムンクの叫び 原爆忌

パレットに ひまわりの色 しぼり出す

 

ドレスデン チャーチ再建 原爆忌       坂元宏志

層雲下 何を語るか 夏の海

 

旅つづく ポツダムに迎ふ 原爆忌       よし子

  添削  旅つづく原爆の日をポツダムに

夏の海 今まさに夕日はらまむとす

     添削  今まさに夕日はらまむ夏の海

向日葵は 亡父の愛せし 花なりし

 

原爆忌 季語となり記憶薄れゆく        青木佳之

 

新宿の 歌声喫茶 原爆忌           松村竹雄

夏の海 引揚げ兵の 懺悔かな

群生の 向日葵描く 百号大

 

原爆忌 少女らの脚太かりき          青木由弥子

夏の海 言葉を忘れている真昼

 

夕鐘の あの夏の海を 知るオルゴール     陽湖 (添削希望)

    添削  あの夏の海を知るオルゴール夕の鐘

犠牲も民 復興も民 原爆忌

空濃青 向日葵の列 畑境

     添削  向日葵並ぶ空真青な畑境

 

向日葵の 首たおれたる 台風後        古井一歩

原爆忌 黒い雨降る 忘れまじ

孫の顔 まだらに剥げた 夏の海

 

〈道場主の作品〉

ひまわりの 先に1945年の恋

夏の海 母子たたずむ 波の音                             悠々

 

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