道場主今月の一言

誠の恋をするものは、みな一目で恋をする。」
ウィリアム・シェークスピア
 

銀座俳句道場 道場試合第85回決着!!  

月の兼題は 「春の暮れ」、他、自由でした

 花は葉となりました。チベット問題、北京五輪への聖火騒動、中国国家主席訪日、ミャンマーのサイクロン被害、中国大地震…。そして国内の「後期高齢者」問題!ついこの前に「今年の桜は美しい」と愛でたばかりなのが信じられないような時の早さです。
 「後期高齢」の呼称と蓋を開けたこの制度のあまりのアラケナサには、開いた口が今も塞がりません。「高貴高齢」として(今や75歳位は元気印ですが、本当にゆったりとした暮らしの時間を持ってもらいたい年齢として)拍手を贈らねばならないのではないかと思うのですが…。確か、想像を超える高齢者社会が、という予想の時に、「高齢者」向け介護などの産業が活発化し…などと言われていたのではないかと。予想はするけれど対策が追いつかない、自分らはどのような制度になってもちゃんと暮せる…お役人さん方はそう思っているようで。
 心の潤う句を読んで、怒りを濾過し、静かな力にしましょう。

 のぼる、萬坊、天花氏の他の作品も結構でした。
 今回は、添削をして上位に取り上げたもの、又、添削評を詳しく書いております。
 参考にされて下されば幸いです。   (谷子)

 

    真っ直ぐな病廊に差し込む午後の日。午後は入院患者にはさほど気忙しくはないのですが、それだけに見舞いなどが無いと、長い時間と感じられるものです。回復期なればこその無聊と、かすかな不安もが、ゆるやかに伝わってきます。
    小さな靴からさらさらと落ちる砂。浜辺を駆け回り、波と追いかけっこをして…。少し遊びつかれているでしょうか。原句は<子の靴の>でした。やはり<より>でしょう。
   「風薫る」=緑の中での「金箔」の輝き。
 原句は<寺の襖に>でした。ここでは「の」を重ねることで一句の焦点を絞りましょう。

【入 選】

登りきし峠に月や春の暮     明法

原句<登りきし峠に月も春の暮>でした。

白牡丹白川静と言う巨人     二穂

本当にスゴイ方です。「白牡丹」がその偉業の静けさを伝えます。
私はNNH俳壇選者を三年して終った時に、自分へのご褒美として白川静の「字訓」「字統」「字通」三冊と、小学館「日本国語大辞典」13冊を揃えました。「高貴高齢」になったらゆるゆると一ページづつ…と思っておますが、そのためにも腕力衰えないようにせねばなりません。

六〇年代の 歌が流れる 春の暮れ  河彦

昭和35年から45年に掛けてのオールウェーズ。高度成長期の元気も。今聞くとまだまだ昭和の懐かしさを蔵していますねー。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

春の暮背筋真っ直ぐ帰りをり          亀山龍子
    この精神!
手渡さる嬰の心音さくらんぼ
    喜びに満ちた一句です。
  級友の名全部の伝えて花は葉に
    何だかドラマがありそうですね。例えば子供へ言い残しておくとか、連絡係に故人の級友の名を告げるとか…。そう思うのは「全部伝えて」だからでしょう。でも、「級友」というのはもっと若い、とか幼い感じがします。実のところ、新しい級友の名前を親に伝える…、「花は葉に」――入学から時間が経って…なのでしょう。もしそれならば
    <友だちの名を全部言え花は葉に>これは小学生バージョン。
    <友の名を皆諳んじて花は葉に>これは中学生くらいか?

  
月空に残る蒼さや春の暮             あゆ
  校門の在りし日や桜蘂降る      
ケンケンパ子は春泥を越えゆけり 

水車小屋音軋しませて春の暮           姥懐
犬吠の歴史街道春キャベツ
  春宵やソロに拍手の鳴り止まず

  かなめ垣ほとほと赤し春の暮れ          方江
    かなめ垣―赤し、となると「かなめ萌ゆ」で季語ですから、「春の暮れ」は単なる「夕べ」に
    <かなめ垣ほとほと赤き夕べかな>と。

  木と語り花と語りて青き踏む
    重ね重ねて書く〜油絵のように〜という手法はありますが、ここでは中七までが「青き踏む」の気分の解説になっています。

突風にラッパ水仙ひざまづく

辻地蔵老婆動かず春の暮れ            正巳
    なにやら不可思議な空気感の句材。辻地蔵の傍らに老婆が腰掛けて動かないのでしょう。
    ゆるやかにフェイドアウト…。北林谷栄がやるとぴったり!切れが二つなので、
    <辻地蔵の傍えの老婆春の暮れ>でしょうか。

  草餅や料金箱に誘われて
    無人販売?
なつかしや根来の茶屋にわらび餅
   
また戻る床屋のはなし春の暮         吐詩朗
ほつれ髪かき上ぐをみな春夕べ
  乗り過ごし帰路聞く少女春の暮
    この句材も可憐ですね。
    中七がいささか説明過剰。「春の暮」ですから「帰路聞く」は削れます。
     <春の暮乗り過ごしたる少女かな>


野良仕事終えて家路へ春の暮     竹風
  メーデーの若き日のこと時過ぎて
  下五を再考。中七と重なります。
撮す人写されている春の昼 

落ちてなほ花とし生きる藪椿       高風
    落椿の鮮やかさが切り取られています。「花とし生きる」は少々ダメ押しの感が強いですね。 
朧夜や二つの影の重なりぬ   
      類想句ありますが…。
武蔵野の山川草木春の暮    

  帰宅にはまだ日の高き春の暮       照子
授かりし色全開や花の春     
飼主に似たる犬連れ春の朝 
    大半はこの感じ。しばしば、飼い主よりも品がよかったり、立派なのも…。

とうふ屋の売切れ仕舞春の暮       萬坊
菜の花や遠くうねりて海の見ゆ

春の暮水吸い込みし植木鉢        天花
楠青葉雨筋まっすぐ降りてくる

引き売りの豆腐屋のらっぱ春の暮     満子
  臥竜のごとさくらさくらの吉野かな
  (イースター島にて)
レイの香に咽せて降り立つ島晩夏

舞姫の舞台ベルリン春の宵        さかもとひろし
花人を追いかけてみれば他人です
    誰と思い込んだのか。もしかすると今は亡き人か。
  葉桜のトンネル森閑宴あと
    「葉桜」には、「宴の後」のイメージあり。

ふりむけば犬がついてくる春の暮     みどり
    <ふりむけば犬ついてくる>※打ち間違えの場合には、この行削除を。
春の宵皿洗う音笑うごと
  愁いつつ傘さしてゆくしゃがの道
    「しゃが」と「雨」…悪くはないのですが、
    蕪村の「花うばら」の一句をつい思います。

  春の暮ペルシャのビーズ砕け散る     弘子
    悪くありませんが、「砕け散る」の強さをもう少し考えてみて下さい。
寂しさをゆるりと抱き花月夜
  春愁やおほらかに引く貧乏くじ
    「おほらかに」を再考。「判って引いている」という感じがでる表現を…。
 
  山下る里の灯見ゆる春の暮         紫微
    <里の灯へ山を下りぬ春の暮>でしょうか。
昭和の日君が股肱と励みたる
    この「君」が誰を指すのか。こういう時に句会の構成メンバーが判っていると
    理解の手掛かりがあるのですが。
    「昭和の日」=昭和天皇=君。「股肱と」=天皇との関わり(民草としてでも)あ
    り。
    更には、そこを踏まえながら、一転して「君」=恋人。という「読み」も可能
    なのです。
    昭和15年の「新興俳句弾圧事件」では、「赤い」と書くと=思想的に「赤」を表している!と拘置されたのです。俳句の短さ。「読む」って自由で難しい!

奥多摩はどこも水音風光る

いつまでも雲を見てたい春の暮れ       山野いぶき
  春霞晴れぬ心を抱えおり
春障子臥せっておれば無音かな
    <その中に臥せて無音の春障子>

新鞍馬天狗に夢中春の夜           有楽
    なにやら歌舞いた鞍馬天狗でしたね。杉作少年が達者でした。
競い合う散る花片の髪飾り
木蓮を目印にとの友のメモ
    「打座即興」も「俳句」の楽しさ。

点滴の一滴ごとや花は葉に          のぼる
うす塩の病院食や鳥帰る

春の暮汽笛が身体うちのめし         美原子
    船の汽笛でしょうか。思いがけない大きな音。別れの哀しみの深さでしょうが、「うちのめし」はいささか強すぎます。
    <大いなる船笛残す春の暮>とでも。

覗いたためか卵落として巣を去りぬ
    燕か雀か…。心にある自責の念。
  垣手入れ振り向けばもう後姿

春夕コーヒーケーキ500エン        意久子
    何となく気だるく、何となく幸せ…。
辛夷さき逝きましひととおなじどし
  朝ドラの瞳に正座新年度

娘二人 母を看護の 春の暮れ       河彦
  春の暮れ  川面に映る  影ひとつ

ノンちやんを遺して花の雲に逝く     章司
    「ノンちゃん雲に乗る」は石井桃子著。懐かしい一書。そして石井桃子氏のご高齢までの活躍。追悼の一句です。
山風や西行庵の春の暮
  陰陽道先師留魂碑春の暮
    <陰陽道の先師留魂碑春の暮>

  春の暮れ小さき流れの淡きかな       二穂
待ちわびし紅花の種蒔きにけり
 
雨長し繭につつまれ眠りたし        明法
    「繭籠り」は季語。しばしばこのように思います。
ふらここやぐいぐい漕いで太平洋
    先行句ありそうですが、なかなかに元気な一句です。

ありがとう繰り返し逝く春の宵       悠々
    かく在りたいと…。一語でもよいかと思ったり…。