道場主今月の一言

よき友人を得る唯一の方法は、まず自分が人のよき友人になることである」
ラルフ・ワルド・エマーソン  
( アメリカの詩人・思想家 )
 

銀座俳句道場 道場試合第79回決着!!  

10月の兼題は 「 秋の声」、他、自由でした

 さて、「秋の声」が季語だと初めて知った時、「ヘ−徳田秋声ってこれから付けたのかー」って思ったことをよく覚えています。秋声の本をそんなに読んでもいない年齢でしたから、多分、映画からでしょうか。そういう思い出と共に、懐かしい季語ですが、なかなかに難しい季語でもあります。ついつい「音」を説明したくなるからでしょう。
    急に寒くなりました。今週末は松島の芭蕉祭に参ります。


「秋の声」というのは、様々な物音が、秋の澄んだ空気の中で聞こえてくることを捉えた季語です。
ある種、心象としての季語と言ってもいいでしょう。
今回は、各自「耳を澄ませて」下さい。        (谷子)

 
 
 

【入 選】

別れ来て釣瓶落しに出逢ひけり     のぼる

天高し塔の高さを計るごと       明法

月の夜足折れ木馬嘶きぬ         弘子
御影のとげぬき地蔵秋の声        萬坊

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

 灯を消せば耳にフルルヤ秋の声            明法
   フルルヤは誤植でしょうか?
 秋の雲大地うねらせ進むかな
  解るようで、解りません。北海道なんかの景色かとも思ったのですが。

秋の声はっと約束思い出す         方江
   「秋声や」でしょうね。
 秋暑し寒暖計にひとり言
   いささか報告。
 梨を食ぶ小さき双手わしずかみ
    「わしづかみ」です。

賜りし新米を炊く幸のあり         みどり
掃除せし厨に秋の陽の深し

 陽を負ふて山うつろへり秋の声       弘子
   いささか背負ったものが多い感。
 人の世の業火となりて曼珠沙華
   よく考えて書いておられます。お上手ですが、これもまた同じく。
   「人の世」「業火」…。俳句は引き算とも言われます。なるべく少ない材料で書く方が、反って読者の想像力を刺激します。

国会もわびしき国や秋の声         有楽
   国が力を失っているとの指摘が強くなりました。
   なんでもかんでも一人勝ちというのもイケませんが、
   (ブッシュみたいになってもねー)ひ弱なのも如何かと。
   適当なバランスって難しいですね。
紅葉散る石垣のみの大手門
   しっかりと書かれています。
 妻かすか椅子での鼾秋日和
   「寝息」にしませんか?

グミ赤く 湖畔散歩の 足元に        河彦
裏磐梯 台風一過 赤と黄と
   解りはするのですが。   
十五周年 紅葉と客と 祝い時 
    何の15周年でしょう?結婚、事業、開業…。
    「祝い時」は削ってもよいでしょう。周年といえば、祝い事ですから。

木犀の香りに濡し秘めしこと        さかもとひろし
弘子さんのところで書いたように、「濡れし」「秘めし」が
   いささか過剰です。
始発前鉄路にひそやか秋の声
「始発前鉄路にひそか秋の声」
   「秋の声鉄路にありし始発前」等等と。
病みぬれば櫨一葉の紅きこと 
   「病みぬれば」はなんだか百人一首のようです。
    「病みたれば」でよろしいでしょう。

うそうそと右手ひらひら秋うらら       萬坊
「うそうそ」「ひらひら」オノマトペを重ねる手法はありますが、
   この句では成功していません。
 それぞれに土こぼしけり八頭
    「八頭」の存在感がよく出ています。

秋の声魚篭残しある舫ひ舟             のぼる
脇役もまたよしとせり赤のまま

木犀のこぼれを掃きて骨納め                 亀山龍子
     零れ敷いた木犀の花びら、そして香り…。それを掃き清めての納骨。
 二の腕の鳥肌さすり秋の暮
 秋の風不意に呼ばれてふり返り


 メモ書きの筆圧強し万年青の実          天花
文化の日丸太の遊具に日の当る        

何や彼や 余生の憂ひ 秋の声            姥懐
野仏の 背も面も撫づる 草紅葉
 戦闘機の 爆音崩す 雁の棹
     雁の棹が?本当にあることかもしれませんが。

秋の声能楽堂に向かう坂            二穂
風情があって、いい句です。
秋天や猩々を舞う女の童
敗戦やあたり蜜柑でもうれし
     中七以降がよく解りませんでした。

せせらぎの石に貼り付く赤蜻蛉         満子
父逝きし齢迎へき身にぞ入む

夕暮れの子供の声に秋を聴く            山野いぶき
 くっきりと水平線や秋の山
          中七まで、「秋」の解説になっています。
吾亦紅母の苦労は人知れず

目を伏せし美人観音秋の声              薫子
      「美人」と書かない方が、美しさをそれぞれが想像します。
 虫食いの茶杓銘あり水の秋
   < 「虫食い」の銘の茶杓や水の秋>
文字板の傾ぐ時計や秋没日 
    
競り勝って櫂の軽さや鰯雲            あゆ
 湖を来る風に秋声旅の窓     
    「風に」と書かない方が、もっとよくなります。
   <湖を来る車窓の風や秋の声>
   <秋声や湖を風渡るらん>
 暮れなずむ湖の羽音や荻の声 
   「暮れなずむ湖に羽音や荻の風」

 宅配や紀伊の味覚と秋の声              正巳
金剛の山浮き出て秋高し
あの窓に今日も灯りが秋の暮れ 
    いつも目にする窓。「秋の暮れ」がよく働いています。

望郷の想い募らす秋の声            松村竹雄
 余所行きの気持ち改む七五三
   「余所行きの気持ちを改めると、常の心になりますが…。 
歳を経てなお未知のあり秋灯下

亡き人の畑の指図秋の声                       瞳夢
 コスモスノ咲き乱れるや休耕田
      夏は向日葵、秋はコスモス、休耕田の定番になってしまいましたね。
きりぎりす尾羽打ち枯らし草を這う
    蟻とキリギリスをつい思い出しました。

草と風こもごも生みし秋の声      吐詩朗
大根芽の二列縦隊とてちとて
 鉤針のたくにな動き鵙の声
    「たくみな」の誤植かと。

 熱き師の俳句談義や秋深し       悠々

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