道場主今月の一言

「学ぶことの少ない人は、牛のように老いる。かれの肉は増えるが、かれの知慧は増えない。
仏陀
 

銀座俳句道場 道場試合第72回決着!!  

3月の兼題は 「春疾風」、他、自由でした

 3月24日、東京から京都へ行く「のぞみ155号」あの非常停止用コックを開いての
事故車に乗っていました。トンネル内で、なんとも名状しがたい音が車窓をこすりました。
京都での朝、能登半島地震のニュース。戻ったら、その輪島から「能登の春を」と海草やイシルが届いていました。その方の家業は漆器の大きな問屋さんで、被害を思うと言葉がありません。漆工芸の名人からは、「無事、被害はひどい人に比べるとかすり傷」との葉書が届き、安堵で座り込みながらも、その心配りに感動しました。余震の中で書かれた葉書だったでしょう。
 北九州は、開花後の寒さでまだ爛漫の花を楽しんでいますが、躑躅、藤、シャガと五月の花が、桜と競っています。何かしら不安な景色ではあります。
 ご自愛の程。   (谷子)

 名前が付くというのは、個としての存在が確認されること。
  「ラン」「風光る」と響きあって元気な一句です。
 
  ふてぶてしいまでの猫の貌がみえるようで…、つい笑いました。
   「寄せ」「下書きす」がよく働いています。この一刻の心理まで伝わります。
 

【入 選】

海境の浅葱の色や涅槃西風        竹雄
「うなさか」「あさぎ」「ねはん」美しい音感でした。

墓見て居ればこちら向きそう座禅草     方江
まじまじと「観れ」ばこその一句。
行く春の絵馬からからと鳴つてをり    水の部屋  
新年、入試祈願…などなどの絵馬、とおもえるのも「「行く春の」の手柄。
うすつぺらな申告用紙春疾風       だりあ
うっとうしいというか、面倒というか、その気分に対して申告用紙のうすっぺらさ。
さくら桜古刹の拝観券売り場       天花
見事な桜が想われます。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

 薔薇の芽のもの言いたげな今朝の庭         さかもとひろし
   「もの言いたげな」の中七をもう少し推敲してください。
産み月の歩き誇らし春の女(ひと)
 紀伊国屋閉店店内(へいてんたなうち)春愁い
   〈紀伊国屋書店閉ざさる春愁い〉ではいけませんか?「店内」を「たなうち」と
   読ませると、何だか江戸時代みたいです。

父を呼ぶ声の千切れて春疾風              瞳夢
大安の富士くっきりと鳥帰る
 寄り掛かる一輪草や野面積み
   「一輪草」「野面積み」はいいのですが、「寄り掛かる」がどうも。
   〈野面積み風のままなる一輪草〉などで。


 高圧線に唸り貼りつく春疾風      吐詩朗
   「貼りつき唸る」でしょうか。
鞠のやうな袴の上の江戸女雛
   愛らしい女雛。
啓蟄や出不精の背を押してやる

春疾風 我には母の 風であり             花子
     「母の風」なかなかに厳しい母上のようで…。
啓蟄や 隠居所前の 杖二本

 オリオンの見納めなりや春疾風            竹雄
   「見納め」がいささか強すぎます。
 湾岸線春を走って伊勢参り
    中七までは元気よくモダンですが、「伊勢参り」となると何だかちぐはぐ。
    「伊勢志摩へ」とかだと一気に走れます。


 株暴落パン焼くを決め春しっぷう          意久子
      なかなかの句材にチャレンジされてますが、
    〈株価暴落春の一日はパン焼いて〉とか
      〈株暴落一日春の疾風吹き〉とか。

手袋のひとに越されて北口駅

春嵐し玻璃に矢のごと雨滴散り       薫子 
春光や黒楽碗の茶の雫  ?
   最後の一啜りでしょうか。黒、緑の配色を包んで、「春光」結構でした。
停車場てふ言葉失せたる啄木忌
   結構ですが、類想句あり。

 春めくや丹波に恐竜出でしやと           竜子
    「や」「やと」を重ねて使うのは再考して下さい。
春疾風千切れ護符飛ぶ太子道
 蕗の薹出づ媼はそっと祈りをり
    「出づ」が必要かどうか?

 ふるつちのせいだけじゃなし龍太の訃        有楽
     「龍太逝く」でしょうか。
春はやて公孫樹のこぶし勇みおり
     「拳」と。
春あかね落書きしてる飛行雲 
   ぐんぐんと伸びてゆく飛行雲。

春疾風編隊西へヘリコポター              正巳
山笑うはるかに延びる葡萄棚
老い一人遅い朝餉の蜆汁
  「遅き朝餉の」と。

 水鳥の隊伍に乱れ春疾風                洋光
   厳しく言えば「水鳥」「春疾風」共に季語・
浅間嶺に噴煙(けむり)は立たず春の雲
     〈浅間嶺に噴煙見えず春の雲〉と。
 ひがしにし南も北も桃の花

建仁寺横切って行く春疾風               方江
   〈建仁寺突っ切ってゆく春疾風〉
流れ来る音はバイエル春隣

花の下 後ろ姿の 二人連れ              河彦
花疾風 携帯電話の 声散らし
ソウルから メールは春の 海超えて
   「越えて」でしょうか。

うららかやふくらみきつて軽目焼            水の部屋
 井戸残る本郷菊坂春疾風 
   このままで欠点はないのですが、本郷での句となると、皆中七までのような表現に
   なります。

   
 スターリン死す春疾風なる号外車           章司
     「なる」を再考してください。
波の穂をちぎりて果てぬ春疾風
 ハーレーを小手ひねるやに春疾風
    「ハーレーダビッドソン」でしょうか。いっそ、春疾風の中、ハーレーをぶっ飛ばさせてください。

嵯峨野来て竹の雄叫び春疾風              満子
エル・ニーニョ一気に春を連れて来る
 大樹なり闇に辛夷の浮かびをり
    〈闇に花浮かべて辛夷大樹なり〉と。

 鯨幕孕み孕みし春嵐                  萬坊
    〈春嵐孕み孕みし鯨幕〉かと。
古書店の路地突きあたり夕桜
    このような古書店、いいですねー。 

春疾風たつた一人の姉逝けり              紫微
    悲しみよりも怒りともいえる感情が「春疾風」でよく伝わります。
桃の花風林火山の郷深く
医学部を出る子入る子春隣

村中の戸をたたきをる春疾風              明法
ジャグラーの手の先に見ゆ弾む春
     「見ゆ」が必要かどうか。「手先に弾む春」でよいかと。
裏山の闇を濃くして春の月
   三句共にきっちりと書けています。

弔問や霰まじりの春疾風                二穂
春疾風風車の回る羽後の浜
 霾りぬ背中丸めて浜の人
   中七以降がもう一歩。一度言葉の場所を動かして見てください。

春疾風帰宅の遅い夫を待つ              山野いぶき
久々に夫と外食春の月
鶯の声に二人で顔合わす
   まことにお幸せな三句です。詠み続けてください。

再会はいつも駆け足春の雲               だりあ
 チューリップ積み木の城の天守閣
   「チューリップ」で満点かどうか。

警察の旗をきりきり春疾風               あゆ
   「警察の旗」なのか「警察署の旗」なのか。
 古碑はるか見えぬ城向く黄水仙   
   古碑―はるか、城―見えない、と黄水仙が向く方角に二つが分離して書かれて
   います。これを統一させてください。

言葉の海からかと拾う桜貝 
   桜貝はどのような言葉でしょうか。

春疾風出窓に並ぶ陶の犬                天花
 拝観の半券もぎらる花明り
   「もぎる」と言いますが、「もぎらる」とはどうも折角の花明りが…。
   〈拝観の半券を手に花明り〉でよろしいかと。


ためらひの 後の決断 春疾風              姥懐
    決断の厳しさが思われます。
一日の 瞬く余生 春疾風
    「余生」が一句を深くしました。
 投薬の 時刻確かに 春の風邪

子どもらの声の散らばり春疾風             よし子
花こぶし空に向かってぐーちょきぱ
犀星忌使ひ古りたるペンケース
    三句共結構です。殊に「犀星忌」しみじみと。

春疾風銀座通りの歩をせかし              のぼる
鳥曇医師のひとこと気になりて
    「鳥曇」がよく働いています。
 白木蓮の盛りに訃報届きたる

 返した言葉呑みこむ春疾風                みどり
   「返したき」でしょうか。
 春嵐こころ鎮めんと針運ぶ
集まれる人みなやさし花づかれ

春疾風鳶一天に上昇す                   弘子
チェロ抱え居眠るひとよ春電車
   「春電車」は強引すぎます。
   〈チェロ抱え春の電車に居眠れる〉でしょう。

夕星を仰ぎ仰ぎて春田径

 春疾風漁船転覆凍たかろ                  悠々

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp