道場主今月の一言

「あなたがたの人間性を心にとどめ、そして他のことを忘れよ。」
(アルバート・アインシュタイン (物理学者))

銀座俳句道場 道場試合第50回決着!!  

月の兼題は 「若葉」「かつお」「万太郎忌」 で した。

「かつお」も「万太郎忌」も、難しい題のわりには、
なかなかの作品が並びました。お疲れさまでした。(谷子)

 やわらかな情感、結構でした
 
 初鰹を載せるに不足の無い大皿。大きな一句。
 日常の中から見つけ出した一句の味わい
 

【入 選】

 若葉風視力検査表の丸      だりあ
黒の丸か、緑と赤の丸か。どちらにしても、すっきりとした句になりました。

 万太郎忌拗ねたる雨の到りけり  傘汀
「拗ねたる雨」の味、結構でした。

知らぬ間にうわっと広がりたる若葉     山野いぶき
勢いが、若葉の命の力を感じさせます。

 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

不忍の波のおくりや傘雨忌         老松
 円卓に主品となるや初鰹
海透かす鎌倉山の若葉かな
  「傘雨忌」「鎌倉」共に、風情しっかりと書かれています。

楠若葉土俵の尻の小さかりき       だりあ
 子供相撲でしょうか。可愛いく白いお尻が見えるようです。
 まっさらなる欅若葉の風生きる
  〈まっさらな欅若葉の風生きる〉

 若葉きく 見よう見まねの 太極拳        トシ子
  〈若葉照る見よう見まねの太極拳〉

擦り切れし 詩集をめくる 若葉風       花子
SLの 汽笛を運ぶ 若葉風
バルビゾン 乳の匂いの 若葉風
  バルビゾンに行かれたのでしょう。未見の選者はバルビゾン派の画を思いました。

 本殿は十六丈の杜若葉             京羅坊 
   「本殿は十六丈」、48mの高さなのでしょうか?
灯台の夕陽かつおのたたきかな
万太郎忌夏川りみを流しつつ
  「夏川りみ」とは、御主ナカナカ!ですネ。解らぬ方は、レコード店へ、どうぞ。

 若葉陰時の余白のありにけり          傘汀
これからは青空つづく初鰹

 十五・六初燕寄る樫若葉             秋吉景子
   「初燕」「樫若葉」共に季語です。この句では「初燕」に絞った方がよいでしょう。
初鰹まず日本酒の封を切る
  
 切り株に若葉芽生えて並木道           正己
   「蘗(ひこばえ)」という季語(春)があります。
鉢巻きと声に鰹の活をかけ
万太郎忌鍋の豆腐がコトコトと
   「湯豆腐や」の一句が、作者の胸に浮かんだのでしょう。

若葉風ゆずられし席あさく掛け          方江
   感謝と共に、何かしら落ち着かぬ思いも伝わります。
 髪止めの赤き少女や初かつお
   「初かつお」の季語を、「若葉風」に替えた方が一句が活き活きするでしょう。  
 新たなる出会いもありて傘雨の忌
   「傘雨の忌」でなくてもよいような…。

若葉風ネクタイよろし三男坊            意久子
   初出勤でしょうか、一人前になって、という思いと、さあ頑張っておいで!と。
 奥の間の遺影のひとつ初鰹
   「初鰹」再考を
朝床のこむら返りや万太郎忌
   つい笑いました。万太郎享年74、でもなんだかずーっと老人の感あり。そのような人物像が浮かびます。

魚偏の羅列湯呑みや傘雨の忌            薫子
 砥部焼きの皿に鰹の色深き
   「色深き」を再考しましょう。
 若葉風、横路,小路飛騨の里
   いささかリズミカル過ぎて、「飛騨」の雰囲気が薄れました。

 若葉垣駅への近道迷路めく             天花
 若葉吹く女庭師の腰タヲル
   「タヲル」ってなんでしょう?片仮名なので、なお迷います。

黒潮に棹撓らせし鰹舟                竜子
キヨスクの深川めし食ぶ傘雨の忌
   「傘雨の忌」と「深川めし」の懐かしさ。今や「深川めし」も、「キヨスク」(キオスク=kiosk)で売ってるのですね。
若葉寒優柔不断のロダン像
   「考える人」でしょうか。ついつい笑いました。ロダンさんもまさか、こうまで言われるとは思ってなかったでしょう。価値判断をひっくり返すのも「俳句」の楽しさの一つです。
  
杉若葉高野は聖おわします            有楽
 久闊を伊豆の地酒で初かつお
 短夜の憶いは新派の万太郎
   懐かしき「新派」。考えると「新派」という名称もスゴイですね。今や明治、大正の
   風俗博物館としても貴重になりました。

   
 スーパーのかつおで夕餉小さき幸      山野いぶき
   いささか素直過ぎました。
 万太郎忌今夜は友のライブかな
   万太郎忌と誰かのライブと。どうも繋がりが悪いです。どのようなライブかを書くと、もう少し繋がって(全く正反対という繋がりも)くるかもしれません。
 拝殿の産土民話若葉風             吐詩朗
憂ひ事いろはにほへと傘雨の忌
   万太郎の書くものも、万太郎自身も「憂い事」様々。それにしても、あの時代の「憂い事」の多さよ、とも。
 常客となりし草屋にかつを鮨
 
   「草屋」を再考。
  
勲章のリボンあや織り傘雨の忌         水の部屋
 面白いものに目を留められました。
 交番の若葉明りの古着市
   「の」を重ねたことで、反って解りにくくなりました。

 真ん中にピンと魚屋の初鰹              あゆ
     いっそ「盤台」の方が。一心太助みたいですかねー。
変声期らし母を呼ぶ垣若葉
 ひときはに万太郎忌の遠嶺星

それぞれの山それぞれの若葉かな           洋光
 振り売りの媼のさばく初鰹
 傘雨の忌徒然草に膝を打つ

セパ交流テレビ相手にかつお食う         霞 倭文
  「交流戦」久々のヒット企画でした。
 通勤路護岸の底も若葉かな
 キャリア引きお婆市場でかつお買う
   「キャリア」というと、キャリアウーマンですが、退職したということでしょうか。
   「キャリー」だと、日本では買い物車を言うようですが…?


 幾重にも山あれば緑新たなリ         もとこ
聖母マリア守る岩窟(いわや)の蔦若葉
葉桜や友を待つ間の風強し
    
 トンネルやまるい若葉へ疾走す        満子 
 なかなか面白い視点と表現です。
一本釣りの鰹踊りし船板に
遊学のカルチャーショック傘雨の忌
   遊学先は東京だろう、というのがしっかりと解る一句です。

 幽邃の古刹の参道若葉風           紫微
   「幽邃」「古刹」といささか、重なります。
鰹釣り大和男子の武者振るひ
老いの身の鮨を好めり万太郎忌
   〈老いの身の鮨を好めり傘雨の忌〉と。

窓ありて2005年の若葉かな         陽湖
   「年々」なのですね。桜も若葉も。
 四品にかつお捌くを夫が待ち
嶺になほ雪ある信濃万太郎忌
   
濃き淡き若葉繁り嫁ぎゆく          さかもとひろし 
 花嫁の父の照れ隠す若葉雨
庭若葉花嫁の父の想い濃し
  〈花嫁の父の背中や庭若葉〉でしょうか。

杜若葉ふるさと知らぬ象の居て        よしこ
宮若葉影ふみあそび終らない
 ねぎ買うてしょうが買うて初かつお
   〈ねぎ買うてしょうがを買うて初かつお〉
   歴史的仮名遣いならば
   〈ねぎ買うてしやうがを買うて初かつを〉ですね。

  
若葉匂う窓開け放ち友と酒         河彦
 鉢植えの竹の若葉に雨やさし
  〈鉢植えの竹の若葉や雨やさし〉
金堂へ若葉をくぐる中尊寺

犬の耳また立ちており若葉風        あきのり
ぶちきられ怒りありたる松魚かな
 川面の燈とこしなへ万太郎忌
   〈とこしなへ万太郎忌の川面の灯〉

楓若葉真白きテーブルクロス干す         美沙
  〈楓若葉真白きテーブルクロスかな〉
速球のピッチャーは少女丘若葉
 三陸の海の群青初鰹
                    
子の魚籠は転がりしまま若葉風          萬坊
   釣りに飽きたのか、そこらで遊んでいるのでしょう。 
 孫が来て掴まりて一歩初がつを 
   メデタイ!一句ですね。
 きんつばの楊枝まっつぐに傘雨の忌
    わざとの「まっつぐ」(東京弁)なのでしょうね。

 百の鉢 それぞれ違う 若葉雨         姥懐
初かつを ありったけの 口で食ふ
 名のみ知る 花は如何なる 万太郎忌
   〈名のみ知る花を思えり傘雨の忌〉

若葉風バンドネオンの歯切れ良く       こばやしのぼる
浜の宿皿鉢の鰹うまかりき
  「皿鉢」=さわち・さはち、と読みます。土佐のさわち料理、長崎の卓袱。
 傘雨忌や名指して「雷おこし」買ふ
   苦労の跡の見える一句ですが、「傘雨忌や」は別の季語の方が、中七以降をいかせるかもしれません。
  
 通夜帰り霊ゆうらりと若葉蔭         みどり
   いささかコワイ一句です。
 人を恋い湯島の路地行く傘雨の忌
   「人を恋い」が、新派調を濃くし過ぎます。ここをもう少し薄くしたら、
   「湯島」以降が生かされるでしょう。

怒りこらえかつおごはんを飲みこめり
   なんで怒っているのかは解りませんが、怒りの強さは伝わってきます。

初鰹おかみは土佐の出自とや         弘子
浅草に洋菓子を買ひ傘雨の忌
   逆の要素の照合。でももしかすると、万太郎はハイカラな洋菓子好きだったかも。
若葉風素肌に絹のシャツまとひ
   いささかカッコ良過ぎ、とも。

ヘアカラー明るめにして若葉風          美原子
かつお食べて離婚のいきさつ打あかし
   「打ち明けし」でしょう。
 遠足の子等の声遠く若葉風
   「遠足」も春の季語です。
 若葉雨花粉の魔界出口見ゆ         ともゐ
    この花粉は「杉花粉」。花粉症の人のやれやれの思いでしょう。
 
網はせぬ君子の如きかつお釣
   「一本釣」の心意気ですね。

宵の街ふと縄のれん傘雨の忌 
   〈傘雨忌の宵の街なる縄のれん〉でしょうか。

ありなしの風に若葉の夜のみどり           章司
 ジャニーズに列なす乙女万太郎忌
万太郎忌雨に色濃き藤の花
    忌日と季語が重なってもよろしかろう、と飯田龍太氏も言われています。

命なる幾億万年の若葉かな                      悠々
         「命なる」が迫ってきます。
        つい、戦後60年を重ねますが、「幾億年」の中では、それも一瞬のことかもしれません。
           となれば、「今」は見えないほどの刹那とも。
            「俳句一句」、その中で、命を刻む営為と思えば、更にいとおしいですね。

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