道場主今月の一言

「空の心といふは、物毎なき所、しれざる事を空と見たつ也。」
(宮本武蔵 「五輪の書」)

銀座俳句道場 道場試合第42回決着!!  

9月の兼題は 「 秋の日」 「渡り鳥」 「女郎花」 でした。

  各地の台風ご被害ございませんでしたか。お見舞い申し上げます。
 久々に激しい台風でした。「台風一過」の空。まだ近隣で、朝から 瓦の補修などの音が響いています。浅間山噴火、台風、プロ野球初のスト、新内閣、イチローの快挙…。秋の初めの慌しさ。
 気を引き締めて歩いて行きましょう。

   (谷子)

 

 「一瞬」に送信してしまうメール。営々と繰り返される鳥の渡り。科学の進歩と自然の営為。
 死して後の場所を、「海光」が届く墓地とした作者。
 春にはその輝きの中を蝶が、秋には、今眺めているような
  「鳥の渡り」が、その上を過ぎて行くのであろう。
 「ムーア」作の女人像を思った。その像に差すのは、実りを育む秋の日差し。

【入 選】

秋の日の山門にあり芭蕉句碑    京羅坊

秋の日の落ちてしばらく猫と居る  河彦

いつもなほ抒情無頼派渡り鳥    傘汀
頼りなく戦ぎて風の女郎花     あゆ
吾妻から嬬恋まで雨女郎花         中土手
今回は「女郎花」が作句しやすいようで、苦戦の感。ある程度の作は出来ても、そこをもう一越えするには、相撲でいえば、腰をもう一段低くすることです。    
 

   【投稿句】 (順不同・赤い字は選者添削、◎は入選)

秋の日や西に伸び行く飛行雲             正己
古都の空一列になり渡り鳥
   「渡り鳥一列となり古都の空」でも
 茂みにも遠目にしかと女郎花

 秋の日のおやつは母の玉子めし            傘汀
   「玉子めし」どんなのでしょう。甘いちりちり玉子の
   お結びかしら、などと考えたりしました。

 二の丸へつづく女坂女郎花

 女郎花の光のしたたりを             秋吉景子
   このままでは、リズムが整いません。
   「女郎花朝の光のしたたりを」などと。

東京の空渡り行く棹の鳥
 秋日差今年は早彼岸花
   これもやはりリズムが。それと、「秋日差」「彼岸花」との
   季語の重なりも避けましょう。
   「濃き日差し早も咲きたる彼岸花」などと。


 惜敗のアテネ五輪や女郎花              竹雄
  女性選手の活躍が目立ちましたが、どうも「女郎花」で、
  そのあたりを表現するのは如何なものかと。

秋の日の残され生きて墓参かな
 切ない思いが伝わります。
 旅立ちの並ぶ電線渡り鳥
   電線が並んでいるようですから「電線に並ぶ旅立ち渡り鳥」と

まほろばの空の広さを鳥渡る            洋光
   類想感あり。
 負ふ草の束に一枝女郎花
   「一枝」かどうか。「一本」とか「ひともと」とか。

手放せし田にふたたびの鳥渡る          花子
 渡り鳥ポスター往時を偲ぶ彼
   日活の「渡り鳥シリーズ」ですか?
 悠々と一雲となり鳥渡る
   「悠々」はどうも感心しません。

秋の日の何やらうごく潮溜り            瞳夢
    よく書かれています。ただし、すでに似たような作品あります。
   「何やらうごく」は、しばしば使われる表現です

待ち兼ねし雁 鴨 つぐみボート池
 刈り残す草刈り農夫女郎花

○秋の日や長きトンネル上信道            とみゐ
 渡り鳥自転車停めて口あけて
    つい笑いました。とてもよく情景は解ります? 
 墨東の名園咲きし女郎花
    「女郎花咲く墨東の名園に」と

渡り鳥かたく閉ぢたる荘の門           だりあ
ふりかえることはすまじと渡り鳥
女郎花何かにつけて母のこと 
    三句とも揃っています。これから先を超える頑張りを。

父の忌に剪るたくましき女郎花          幼月
 渡り鳥波と気流の命綱
秋の日を花と一緒に揺れてみる

 大空にV字書きたる渡り鳥          山野いぶき 
秋の日や異郷の友に文を書く
病む妻を連れて散歩や女郎花
  「病む妻を連れての散歩女郎花」と
本にある折跡秋の日ざしかな            天花
 楼門の傾ぐ山寺女郎花
   このままでも結構ですが、下五の季語をあれこれと
   替えてみてください

秋の日や片道切符の船の旅
   これもよい句ですが、すでに「片路切符の」というフレーズ  
   は沢山書かれています

神楽殿注連縄五屯秋日濃し             もとこ
  「神楽殿の注連縄五屯秋日濃し」と
凡日のフィナーレ秋日烈しくも
 女郎花速度あがらぬ池上線

 秋の日やほっそり眉引く母の粧           竜子 
  「細く眉ひく母の化粧(けわい)や秋日差」
女郎花棚田の多き瀬戸の島
 島渡る義経主従越えし谷
   「義経主従越えし谷なり鳥渡る」

 鳥わたる風吹きわたる風蓮湖            京羅坊
よき過去のふるさとにあり女郎花

 秋日あはし歩のおぼつかぬ人とゐて          美沙 
○錫の兵なりとも歩め鳥渡る
   中七までは結構です。季語を別のものにする方がよい一句に  
   なりましょう。

 土の技秋の日を受け床の間に          河彦
 女郎花一人にあらずこの店で
   なんだか、この二句はよく解りません。短歌の上の句の
   ようです。

 まっしぐら入日の海を渡り鳥           あゆ 
秋の日に染まりて帰る漁船    

 秋の日や小気味よき揺れ一輌車           吐詩朗
   「小気味よき揺れや秋日の一輌車」
女郎花手折り加へて父母の墓 

秋日和足湯の出湯あふれをり           水の部屋
高原の風の自在や女郎花

 秋の日や休み休みの店そうじ             意久子
女郎花祖母とお手玉作りかな
渡り鳥みるみる小さきそら青き

糸ぐるまからから秋日濃かりけり             遥
子の声を攫って秋の落暉かな 
 鳥渡る旅の枕に寝つかれず 

 渡り鳥空の高みを列律儀               あきのり
ほろほろと木の葉にゆれる秋日かな
 口すぼめ祈る老いに女郎花

 秋夕日アルバム整理遅々として            のぼる
鳥わたる噴火の灰のキャベツ畑
お地蔵に話しかけをり女郎花
   あたたかな一句です

碧空にわれ横たはり女郎花            田淵萬坊
秋の日にゆばり永しや老いし牛
 大うちわ扇ぐごとくに小鳥来る

 秋の日や えぞ鹿の目も なつかしげ        有楽
  「えぞ鹿の人恋う瞳秋日差」
涛沸が恋しと渡り鳥来たる
 この道もたださりげなき女郎花

秋の日や朝一点の雲の浮く             方江
 女郎花 紙につつみてバスを待つ
嵐山の夕日かすめて渡り鳥

見舞い終え秋の日差しによろめきぬ          みどり
 ふり仰ぐ空に渡り鳥佳き日なり
 女郎花屁の匂い放ち枯れにけり
  勇ましい一句でした
  「屁の匂い放ち枯れけり女郎花」

  
 キュルキュルと鳴る靴秋の日の匂い          弘子
拉致されし子らはいづこに渡り鳥
もう会えぬ母に詫びをり女郎花 

秋の日や山登らんか書(ふみ)読まんか       紫微
 ミサイルの恐怖やつのる鳥渡る
 おみなえし人目忍びつ群生す

津軽半島の 崩れて能登や 秋の雲                  姥 懐
   「津軽半島崩れて能登や秋の雲」
 且つもまた 生命を継(つな)ぐ 秋の蝶
 ブーメラン 去年の道筋 鳥渡る 

訃報ありて秋の日ざしのめぐりけり          二穂
跨線橋上れば鳥の渡り行く
女郎花身にまといたる影うすき 
    何かしら幸薄い感じが伝わります。

 禅僧に秋日当たるや足疾し              さかもとひろし
    「禅僧の迅く過ぎ行ける秋日中」
空母入る鳥渡り初む佐世保湾
 風に触れる説話どおりの女郎花

奇跡的快癒の便り秋の日に                       陽 湖 
 秋の日の深い空飛び声逢瀬
雲変わり風変わりまた渡り鳥
合併へ揺れている町女郎花

なにごともなきやに別る女郎花                  章 司
    こういう別れの方が多いのかもしれません。逆に言えば、「なにごともなかったから」別れるでしょう。 
屋上の稲荷明神渡り鳥
秋の日や子規の地よりの若き客
 秋日和辻を曲がればまた神輿

 秋の日や硝子戸すくなき旧街道                 中土手
 小鳥来る農薬まみれのわが山河  

秋の日の造酒屋の白き壁           美原子
 おみなえし作務衣干したる庫裏に咲く
   「咲く」は削りましょう
園児らの予行演習小鳥来る

澄める空広きに抱かれ鳥渡る                   悠々

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