ガサ恐るべし
佐々木 叶

 首がなくても胴体は残る。根こそぎ首脳陣が逮捕された野村証券、第一勧銀は、いまや、不祥な胴体だけのイメージが強い。たかが一介の総会屋相手に、なぜ超一流トップ企業が、社運を賭けるほどの冒険(利益供与)をしたのか。裏取引、裏工作、裏金など、やがて東京地検特捜部は、その全容を明らかにするであろう。

 だが、特捜部は、マスコミが期待するほど、洗いざらい捜査事実を公にはしない。捜査の秘密という守秘義務と、公判対策に備えているからだ。

 名検事は植木職人と同じ、といわれる。いかに法適用の範囲を絞り、幹を残して枝葉を刈り取るかが、捜査の成否を分けるのだ。

 知能犯事件は、証拠と供述で勝敗が決まる。なかでも法廷に提出する証拠を顕在証拠といい、隠された予備証拠を補充証拠という。例えば、盗聴や私的スキャンダルなどは「補充」に回され、被告への心理的圧力材料に利用されることもある。

 そこで威力を発揮するのが、ガサ(家宅捜査)なのだ。野村、一勧事件では、ダンボール箱で2千個以上の資料が押収された。事前に証拠隠滅されたものもあるだろうが、そのカベを破るのも、ガザの役割である。日記、メモ、帳簿の一部など、キラリと光る証拠が、事件のカギを握っている。

 昭和29年の造船疑獄で、山下汽船二代目、山下太郎の洋服から「山下メモ」が発見され、政界大物につながった。その一人、佐藤栄作自民党幹事長(当時)は、指揮発動で難をのがれ、いま「佐藤日記」が話題になっている。

 こんどの野村、一勧では、多くの政治家が取引口座を持っている。余りにも多過ぎて飛び火は期待できない。リクルート事件が「中曽根、竹下狙い」といわれながら不発に終わった前例もある。特捜の目的は、野村、一勧の追及で手いっぱい。派生の余力はなさそうだ。



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