イチローと無三振記録

スポニチ編集委員室室長 中沢 三生

 スポーツ紙の一面を飾るスター選手の少ないパ・リーグのなかでオリックスのイチローは文句なしのナンバーワン打者である。打ってよし、守ってよし、走ってよしと三拍子そろって人気も抜群だ。

 そんなイチローが六月に無三振の日本新記録を樹立して脚光を浴びた。これまでの連続打席無三振記録は阪神・藤田平選手の208打席連続だったが、これを更新して216打席連続まで伸ばした。彼は217打席目にダイエーの左腕・下柳に空振り三振して記録はひとまずストップした。それまでの間、藤田平選手の場合と全く異なり、連日マスコミが注視して大騒ぎするなかでの達成劇はプレッシャーにも負けない強い精神力に驚くばかりである。

 元来、このイチローはこうした個人記録の数字に対して全く無関心を装い、この手の記録への質問には一切、答えない姿勢を貫いていた。しかし、今回ばかりは観念したか「三振しないだけでこれだけ騒がれるのだから、ボクは幸せ者なんだろう。喜んでもらえて満足しています」と実に珍しく?素直なコメントだった。

 この一連のマスコミフィーバーぶりに気をよくした仰木監督は「イチローの三振記録をストップさせた下柳をオールスターゲームに監督推薦させる」とすぐにフォローしたほど。もっとも、私が思うには下柳たしかに打ちにくい立派な投手だが、多分イチローは故意ではないが、連日記録更新の日々をマスコミに質問されるのがうんざりで"一区切りつける"という気分が心のどこかにあったのではなかろうか。おそらく、本気でその気になっていたら、間違いなくとてつもない記録を伸ばしていただろう。つまり、イチローはこの無三振記録が今季の大目標とは考えずに他に狙いがあるのだ。それは日本プロ野球史上いまだ誰も到達できないでいる「年間打率4割達成」だと私は断言する。今年は本塁打を捨てて(目下3本で昨年までより極端に少ないペース)打率アップに照準を合わせた新打法こそが"4割狙い"の証しだろう。六月下旬の時点で3割8分台の高打率はその夢の実現を予感させる。下柳に食った三振が今季わずか5個目。その時点で日本人最高年俸、3億6千万(推定)の巨人清原は70三振の打率2割1分台。巨人ファンのブーイングがうなずける。


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