「ジーザスの日々」

大竹 洋子

ブリュノ・デュモン監督
フランス/1997年作品/カラー/96分

 毎年6月中旬の4日間、横浜で開催されるフランス映画祭は、今年で第5回を迎えた。映画を文化としてとらえ、芸術的にも商業的にも自信をもつフランスの映画界と政府が結束して、フランス映画の普及にやってくるのである。

 100人にものぼる代表団の中には、心がときめくような高名な監督、プロデューサー、女優、男優が顔をそろえている。ディストリビューターはもちろんのこと、ル・モンドやフィガロをはじめとするジャーナリストたちもやってくる。

 代表団の団長は第1回がジャンヌ・モロー、それからソフィー・マルソー、シルヴィー・ヴァルタン、イザベル・ユペールとつづいて、今年はシャネルのモデルとしても知られるキャロル・ブーケだった。このようなスター女優を擁しての陣容からみても、フランスがいかに日本でのフランス映画の紹介に力をいれているかが解る。世界中がハリウッド映画に席巻されてしまった現在、国を挙げてのこの映画対策を、どうしても羨ましいと思ってしまうのである。

 今回の上映本数は21本、その中の5本を見たが、一番心に残ったのは「ジーザスの日々」だった。題名から受けるイメージとは遠く、フランス北部の都市リールの、もうベルギーに隣接しているような小さな町の不良少年たちの物語である。毎日を退屈しながら過ごしている失業した5人の10代後半の少年たちは、何かというとバイクを連ねて、町はずれの一本道を疾走している。

 リーダー格のフレディは入れ墨はしていても、見るからにひ弱でてんかん持ちである。母親は小さなカフェを経営していて、息子をちゃんと育てている。彼もごく素直に母親の言い付けを守り、それが趣味の小鳥の啼き声コンテストで優勝したりする。だが、ガールフレンドのマリーが、アラブ系の少年と交際しているのを知ったフレディの、一体どこからあのような凶暴性が現れたのだろうか。人種差別をむき出しに、フレディはアラブの少年をなぶり殺しにする─。

 これがデビュー作の監督のブリュノ・デュモンは39歳である。リール市の高校で哲学の教師をしていたが、若者とコミミュケートするためには、学校で教えるより、映画で表現するほうがより適切ではないかと考えた。広告業界や産業映画の分野で仕事をしながら構想をねった彼は、この一作でフランスがもっとも期待する監督の一人に躍り出た。

映画「ジーザスの日々」

 上映後のトークで、見終わったあとに人生を考えるような映画を作りたいといったのに、何をメッセージしたかったのかと観客から質問されて、彼は絶句した。正直いって私にも難しい作品である。題名が示しているものも漠然としか解らない。しかし、あの何もすることのない少年の視線が追った空や木や遥かな山並み、警察から逃げた少年が畑の中で一人、取り返しのつかない思いで眺めるどこまでも続く一本道に、もしこれが天にまで届くならと、私は涙ぐんだのである。

映画「ジーザスの日々」

 出演者は全員、撮影した町でスカウトされた素人である。フランスでは批評家の絶賛を受け、興行的にも大ヒットしたが、日本での公開は未定。

映画「ジーザスの日々」

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