「浪人・伊良部よ頭を冷やせ!」

中沢 三生

 三十年の長い野球記者生活を今、振り返ってみても、伊良部秀輝投手(27)ほどのユニークな男の存在を他に知らない。彼の歯車は一体どこでどう狂ってしまったのか。おそらく、その真相は永遠のナゾにおわるかもしれない。やり切れないのは野球フアンだろう。彼は昨年のシーズン途中で「大リーグへ行きたい」と所属のロッテ球団に直訴した。その時、多くの心あるフアンは彼の160キロに近い豪速球で大リーガーがキリキリ舞いするシーンを夢みて「それもよかろう」と温かい声援を送りたい心境だったと思う。スポーツマスコミも“第二の野茂出現か”とばかりに熱いまなざしを送ったものだ。

 ところが、彼の大リーグ熱望がある日突然の如く「ヤンキースに行きたい。他の大リーグなら拒否する」と大変化をとげてしまった。最大の問題はこの一点だ。伊良部よ、なぜここまでヤンキースにこだわるのか、フアンにわかりやすく説明してほしい。表面的なコメントは「子供の頃からヤンキースが好きだったから」と言っているがまるで説得力がない。ならば、ロッテにドラフトされた高校卒業時に入団を拒否すればよかったのだ。お世話になったロッテで花開いて、大リーグに誘われたら在籍していた日本の球団なんかもうどうでもいいといわんばかりの態度どうみても許せない。私は日本のルールの未完成やロッテ球団や日本コミッツショナーへの批判のほこ先を向ける声も一部にあることを承知の上でまず“諸悪の根源”は伊良部自身にあると断言したい。

 いずれ、彼はゴリ押し?で結局、希望がかなう形でヤンキース入りは実現する状況にある。しかも、もっとも働き盛りのいま、すでに大リーグはシーズンに入ったというのに、しばしの間とはいえ、“浪人生活”は致命傷につながりかねないマイナスだろう。失礼ながら、あの丸々太った大きな顔を見るにつけ、ひたむきな自主トレをこなしていたとは思えない。心あるフアンは今や、“好きにせい伊良部のわからず屋”とがっかりだろう。こうしたフアンをもう一度引きつけるにはよほど頑張らないと彼の投手生命はピンチにおちいってしまう。今、どこにいて何を考えているにか、新婚さんの伊良部よ、寒波の続くアメリカでたっぷり頭を冷やしてくれ!



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