フープ・ドリームス

大竹 洋子

スティーブ・ジェイムス監督
アメリカ/1994年作品/169分/カラー
ヴィスタサイズ/シネカノン配給
サンダンス映画祭観客賞 全米映画批評家協会賞
ニューヨーク映画批評家協会賞

 「アメリカの黒人の少年なら、だれでも毎日、自分の身長を壁に書き記す」という文章を読んだ記憶がある。彼らにとって背が高くなること、それが夢の始まりなのだ。「フープ・ドリームス」はその夢の実現をめざす二人の少年、シカゴの下町に住むアーサーとウィリアムの4年間を追ったドキュメンタリー映画である。夢、それはNBAの選手になること。ちなみにフープとは、バスケットボールのゴールの輪っかのことである。

 NBAの熱烈ファンを自認する私は、この映画を見ることにためらいがあった。結局、夢はかなわず,ドラッグや酒に溺れる悲惨な結末を迎えるのではないかと。しかしそうではなかった。共に路上でバスケットに興じながら、抜きん出た存在の二人の少年がスカウトの目にとまり、名門高校に進学することになる。NBAかつての名選手、アイザイヤ・トーマスの出身校である。

 こうして始まった二人の新しい人生。彼らが于余曲折しながら自身の足でしっかり歩いてゆく姿を、カメラは誇張することなくじっと捉える。

 家族の期待を一身に受けながら、二人はNBAの選手になることはできなかった。だが彼らはそのために全てを犠牲にしたりはしない。結婚もするし子供も生まれる。家族も彼らの動向に一喜一憂しながら、彼らの生活を脅かすようなことはしない。ウィリアムはバスケットと関係なく大学を卒業できたし、アーサーは今も夢を追いつづけている。彼の夢はかなり遙かなところまでゆき、決して諦めることはない。

 アーサーの18歳の誕生日。母親はケーキの蝋燭に火をともしながらいう。「18歳まで生きられて本当によかった」。私の涙はとまらなくなる。「フープ・ドリームス」は、人生で一番大切なものは愛であることを教えてくれる。“アメリカの叙事詩”として高く評価される所以であろう。



映画「フープ・ドリームス」  
 
5月10日より渋谷シネ・アミューズで公開 (03-3496-2888)

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