97年版新入社員

 私の仕事の一つである新人研修のシーズンが終わった。毎年,その年々の新入社員のカラーがあるが、昨年までと今年で何かが大きく変化している様に感じた。「いい子で文句のつけ様がないが使えない」といった雰囲気なのだ。

 物忘れがひどくなったとはいえ、いつも五月末ぐらいまでは、印象に残った新人を覚えていた。そして「あんな事言ってた」「あの子はうまく会社になじめたか」と情が移ったりしていた。今年は,そういった個々に印象が全くないのである。サラサラと,時間通りに何のハプニングもなく,それなりに研修を進めていくだけだった。彼等の持っている共通した物差しは、どうも「めだたない様に」という事らしい。ルールは守り、個人の意見や解答ではなく、誰もがうなずくしかない型通りのものばかりだ。就職の氷河期も乗り超えてきた彼等だけに、知識はあり、人の話は良く聞く優等生だ。しかし,肝心の「自分らしさ」を表現しない。ちょっとしたミスを恐れ、周りの状況を常に見て、自分の決定している。この若さでこの如材なさは、恐い気がする。

 持っている知識を、本当の知性に育てるには、バネのある質の良い知恵が必要だ。何を投げても、動かず、同じ表情で、同じ様な答えを返す彼等に,私はほとほと飽きてくるのだ。昨年までは、むしろ終わり頃に、それぞれの個性が見えてきて、ちょっとした充実感があった。どうしたんだろうか?現代社会が要求しているのが、この「可もなく,不可もなく人間」なのかもしれない。マニュアルだけでは生きられない世の中で、彼等はやっていけるのか、小さな挫折にへこたれないか、自分らしさを表現できず,どこかで暴走するのではないかと心配になる。こんな事を考えるのも,年をとったせいかと思うこのころだ。(新山 恭子)
              
                       

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