銀座一丁目新聞

茶説

「人間万事金世中」の世相

 牧念人 悠々

前進座は5月、河竹黙阿弥の「人間万事金世中」を東京国立劇場で上演する。横浜が貿易港として開けた明治の初めの話である。150年前の昔も人間万事金世の中であった。それでも救われるのは主人公の乳母に人知れずお金を与える身内も出てくれば、よく手紙を出した主人公に莫大な遺産が贈られるからだ。この世の中、とかくお金をめぐる悲喜劇は後を絶たない。

日銀の調べによると、家庭や企業にため込んでいるお金は106兆7165億円もあるそうだ(昨年12月29日)。前年は102兆円4612億円であったから4兆2553億円も増えている。まことに実感がわかない数字だがお金のあるところにはあるらしい。「自分の財産を数えられるようなら大富豪ではない」といったのはアメリカの億万長者ジャン・ポール・ゲティ(1892-1976)である。石油王である。世界一の大富豪でありながらケチだったことや孫のゲティ三世が誘拐されたことなどで有名。46歳までに5人の女性と結婚した。

アメリカのネルソン・ロックフェラー(1908年-1979年)は、副大統領(41代)に指名された時「自分の財産を議会に報告せよ」と言われ即座に応えられなかったという。公表された財産は2億1800万ドル(約650億円)利子収入1年に460万ドル(約13億8000万円)であった。トランプ米大統領の資産は14億ドル(約1550億円)。因みに日本の閣僚の資産を見ると、麻生太郎副総理兼財務相4億9127万円が最も多く、安倍晋三首相は1億528万円にすぎない(2005年2月)。

グローバル経済は格差社会を生む。お金は強いところに集まる。9兆円の建設費のかかるリニア中央新幹線に大手4社の建設会社がひそかに談合する。金力のあるものが随所で莫大な投資をし、ビルを建て我が物顔でのさばっている。政府は東京五輪をはさんでスポーツ市場の規模を2015年の5.5兆円から2025年に3倍の15兆円規模にする政策を打ち出し企業をあおる。一方、年々要保護世帯が増える。世帯単位における裕福さ、生活レベルの度合いを示す指標の一つとして「エンゲル係数」がある。それで見ると2011年23%であったものが2016年では25.8%に増えている。生活のレベルは落ちている。試みにスーパーへ行ってみるがいい。主婦だけでなく男性までが品物をよく観察し1銭でも安い物を買っている。いじましいというほかない。

明治元年から今年で150年。世相は「人間万事金世中」。河竹黙阿弥は流麗な台詞と音楽を使って江戸情緒あふれる生世話物を紡ぎだした。だが思いやり、物のあわれを忘れなかった。この隠し味が現代最も欲しいものだと思う。