銀座一丁目新聞

茶説

エクアドルに車いすの大統領誕生する

 牧念人 悠々

世界に152人いる大統領の中に優れた人物がいる。その一人がこの5月、エクアドルに誕生のレニン・モレノ大統領(64歳)である。しかも車椅子の大統領である。毎日新聞によると、19年前、妻と一緒に行ったパン屋の帰り道、2人組の強盗に襲われた。至近距離から銃で背中を撃たれて脊髄(せきずい)を損傷し、両足の自由を失い車椅子生活になった。45歳の時であった。此処が人生の分かれ道。前向いて進むか、悶々として失意の中で生きるかである。私はレニンさんほどの打撃を受けたことはないがしばしば落ち込む。その際「そんなときはその道を 黙って歩くことだな 愚痴や弱音を吐かないでな 黙って歩くんだよ ただだまって 涙なんかむせちゃだめだよ」(相田みつをの詩「道」)と口ずさむ。レニンさんは「もう一度生き直そう。病むのではなく笑おう」と立ち直った。

両親はともに教員で、へき地教育に取り組むため1950年代に熱帯雨林アマゾンが広がる東部オレリャナ県へ赴任。レニンさんは、両親が乏しい給与を貧しい先住民に分け与える姿を見て育つ。誘われて政界に進み副大統領まで務めた。「私はすべての国民の為の、中でも特に貧しい人々のための大統領になる」と語る。エクアドルの人口は1168万人、面積28万3560平方キロメートル(北海道を除いた日本の広さに相当する)。世界遺産登録第1号のガラパゴス諸島を持つ。GDP1721億ドル(62位)、一人当たりGDP10908ドル。

前大統領ラァフエル・コレア氏は自らの希望で世界の元首としては初めて被爆地廣島を訪れた(2010年9月7日)。 原爆資料館の芳名帳には「人類のため、連携して平和な世界を実現することを約束する」と記した。レニン大統領も前政権の「反米左派」の立場を引き継ぐ。前途は必ずしも平たんではない。 小国であっても平和を求める声を訴え続ければそれがやがて大きな潮流となる。グローバリゼイションの弊害が顕著に出始め、ISによるテロの頻発、移民・難民への迫害の増大など不安定な世界へ動き始めた 現在である。レニン大統領の存在は小さい国ながら大きな役割を持つ国であるといっても過言ではない。